★【名作・良作】『若おかみは小学生!』(2018/Ave.83.1) text by PIANONAIQ
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作品NO.60 『若おかみは小学生!』
【名作・良作】 1クール尺・15分枠
世界観:80 脚本/構成:85 演出:80
キャラ:90 演技(声優):95 引き:80 劇伴:80 作画:75
Ave.83.1 詳しくはこちら ネタバレ厳禁度:★☆☆☆☆
2018年4月~9月
テレビ東京系列
全24話(15分枠)/小説原作(令丈ヒロ子)
旅館もの・ドラマ・ファンタジー
監督:増原光幸/谷東
シリーズ構成:横手美智子
キャラクターデザイン:朝来昭子
音楽:はまたけし
アニメーション制作:マッドハウス
<キャスト>
関織子(おっこ):小林星蘭
ウリ坊:松田颯水
秋野真月(まつき):水樹奈々
秋野美陽:日高里菜
鈴鬼:小桜エツ子
関峰子:一龍斎春水
おっこの母親:能登麻美子
《ワンツイートレビュー》
老若男女問わず万人の心に響く力を持ったアニメ作品。旅館もの、両親を亡くした少女など王道の題材や設定に問答無用で心が揺さぶられるのは、等身大の小学生に自然に備わる人間的魅力や純粋な気持ちが丁寧に描き出されているからだろう。主役を演じた小林星蘭の声の可愛さと演技力の高さも素晴らしい。
■ はじめに ~ 2018年は若おかみの年
2018年、日曜朝の15分枠で放送された本作は、魅力的なヒロイン、心に響く人間ドラマ、幽霊達との楽しい掛け合いなどを軸に毎回気持ちの良い涙を流せるような充実したお話を見せてくれた作品であった。
よって、今年のナンバーワンTVアニメ作品に本作を挙げる人も少なくないはずだし、最終回後に公開された劇場版も過去類を見ないほどの大絶賛で迎えられている。
そのような状況を考えれば、2018年は若おかみの年だった、といっても決して大袈裟すぎるものではないだろう。
原作は300万部以上の売り上げを記録している令丈ヒロ子の児童文学シリーズ。全20巻で完結している(本作と『黒魔女さんが通る!!』、『妖界ナビ・ルナ』の3つが2000年代児童向けラノベシリーズ御三家であるという意見もあるそうだ)。
恥ずかしながら、当初漫画原作とばかり思っていたので児童文学が原作であると知った時は驚きもあったが、試しに1巻だけ読んでみての印象は、「アニメ化によって大幅にブラッシュアップされているなあ」(=大人の鑑賞に耐えうるものになっている)で、丁寧な映像化を行ったアニメ制作陣への評価はより高まることとなった(念のため、原作は原作で読みやすく全然悪くないです)。
原作から特にパワーアップしてるなと感じるのは、アニメ版が備えるその「涙腺破壊力」だろうか。
1話に至っては開始早々瞬殺されてしまうほどだったが、いくら泣きやすい体質(?)であるとはいえ、自分でもどうかと思うほど毎回泣きながら見ていた記憶がある(これまでツイッターで感想を見てきて、毎週涙腺を緩めながら見ていたアニメファンも少なくなかった印象があるので、「泣ける作品」という評価もおあながち間違ってはいないのだと思う)。
「旅館もの」は確かにとても好きで相性の良い題材だし、両親を早くに亡くした「心に傷を負った少女」という設定に滅法弱い、というのはあるにしても、小学生若おかみが頑張る姿を見てこうも心が動かされるのは何故だろうか。
その理由を考え述べることがそのまま本作の魅力を紹介することになるのでは――
今回の記事はだいたいこのような目論見で書かれています。
【目次】
ヒロインの魅力について
劇場版、その他の見どころについて
■ 作品評価 【名作・良作】
【傑作】 絶対観た方がよい作品
【名作】 観るべき、マストではずせない作品
【良作】 観た方がよい(がマストではない)作品
【佳作】 時間があるなら観ることを勧めたい作品
【水準作】 普通だが見どころはある作品
【凡作】 酷いが全否定ではない、どこか残念な作品
【失敗作】 ほぼ全否定、何とも残念な作品
【駄作】 取り上げる価値もない作品
【傑作・名作】 傑作と名作の中間
【傑作>名作】 傑作寄り
【傑作<名作】 名作寄り
※惜作 (名作になりえた惜しい作品)
※超神回 (ずば抜けて素晴らしい名作回がある作品)
◆ 作品評価順リスト(=「見て損はない作品」ランキング )はこちら
【総得点/Ave.】 665/83.1
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世界観 : 80
脚本/構成 : 85
演出 : 80 グループA:Ave. 81.7
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キャラ : 90
演技(声優) : 95 グループB:Ave. 92.5
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引き : 80
劇伴 : 80 グループC:Ave. 80
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作画 : 75
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100 唯一無二、これ以上はそうそう望めない最高峰
95 最高、傑作レベル、文句なし、その作品にとってなくてはならない
90 めちゃくちゃ良い、名作レベル
85
80 かなり良い(強い、巧い)、良作レベル
75 良い(強い、巧い)
70 なかなか良い(強い、巧い)、佳作レベル
65
60 普通、水準作レベル、少々物足りないが及第点は出せる
50 凡作レベル、2流 30 失敗作レベル、3流 0 駄作・愚作レベル
※ 各パラメータが含むもの、点数の付け方など、詳しくはこちらで
※ Ave.と作品評価は別、つまりAve.が75でも【名作】にすることは可能
※ これまで扱った全作品の採点等は作品評価順リストの方に纏めています
■ ネタバレ厳禁度
★☆☆☆☆ (まったく問題なし)
あらすじ ~ 朝ドラ的作風について
小学生で若おかみとなる本作のヒロインは関織子、「おっこ」という愛称で呼ばれている。
物語は交通事故で両親を亡くしたおっこが祖母の峰子が営む旅館「春の屋」に住むために訪れるところから始まる。
早くに両親を亡くすという、小学生にはあまりにも過酷な現実を背負ったまだ小さな少女を旅館関係者の大人たちは、どこか傷に触れないような配慮を感じさせるいたわるような目で見ている。
それによって、まったくもって明るい映像の中にもどこか物々しい雰囲気が漂っている立ち上がり、にも思える。
当のおっこは嘘みたいに元気な振る舞いを見せているが、勝手知らぬ新しい自室で一人になった途端、不意に悲しさに襲われてしまう。
見ているこちらも早々に切実な気分にさせられるのだが、もしかしたら児童文学である原作が対象として想定している子供たちよりも大人の方がこういった光景を見た時にはより刺さるものがあるのかもしれない。「親目線」に近いものであろうか。
「何をめそめそ泣いてんだよお前は」、とここで現れるのがウリ坊という春の屋に長きにわたって住まう少年の幽霊。
本心はわからないが、いたずらっぽくちょっかいを出すような中にもどこかいたわりや優しさが感じられるこのウリ坊の登場シーンとキャラ造形は王道で既視感もあるがやはり良い。
結果的におっこに悲しさを忘れさせているのだから――
長年、峰子を見守ってきたウリ坊の言動を発端に、ひょんなことから若おかみとして旅館の仕事を手伝うことになったおっこは、ウリ坊始め他の幽霊達に助けられながら様々なお客が持ち込む問題に向き合っていく中で、初めはいやいやだった旅館の仕事の楽しさに目覚め、若おかみとして成長していく。
あらすじはこのように非常にシンプル。小学生が幽霊達とともに若おかみ修行に励む旅館ものとして多くの方が想像する通りの一切奇をてらわない物語である。
また、このような女の子が仕事で頑張る姿を描く題材はもちろん、能登麻美子さんの優しいトーンのナレーションが毎回入るところなどからも、さながらNHK朝ドラのアニメ版といった印象を本作からは受ける(能登さんがおっこの死んだ母親役も兼ねていることで、このナレーションがあの世から我が子を見つめる視点の導入ともとれる妙味となっており、こういったところも原作からのブラッシュアップを感じさせる部分である)。
15分枠での全24話なので、実質1クールアニメのスケール感を持った作品になるが、15分の短尺の中で毎回ちょっとしたお話の起伏と展開が盛り込まれるので、退屈せずに意外とサクサク視聴を進められるあたりも朝ドラに似ている。
シンプルで奇をてらわない物語と朝ドラ的作風。ここにさらにアニメ表現が持つ力、アニメだからこそ描けるものが加わることで本作の屋台骨は完成するが、そこで誰の目にもわかりやすく際立ってくるのが、おっこの魅力、ということになる。
シンプルなストーリー故に主役により多くのスポットが当たり魅力的に感じやすい、
主役が魅力的だからこそシンプルな話がより大きな力を生み視聴者の心を動かす――
本作が持つ力の源はこうした相乗効果にあるのではないかと思う。
ただ、言うのは簡単だがこれを実現するのは並大抵ではいかないはずで、本作に関しては、(児童文学ながら実は)相当緻密に作られている原作の力を丁寧な映像化によってより大きく膨らませることができたからだろうと。
では、主役であるおっこの魅力とは何だろうか、ということになってくるが、
それが最初に書いた、等身大の小学生に自然に備わる人間的魅力、ということになる。
等身大という点においていえば、おっこが外見的に深夜アニメでよく見られるわかりやすい美少女造形ではないところは重要だろう。
ごくごく普通の(等身大の)小学6年生の女の子が旅館の仕事(バラエティ豊かな客がそれぞれに抱える・持ち込む問題)に真正面からぶつかっていく健気な姿とそこで見せる「誰かのために何かをしてあげたい」といった純粋な気持ちに我々視聴者は胸を打たれるわけであるが、感情移入させるという点でもこのようなおっこの造形は非常に重要な要素であろうと。
またここでやはり先に触れた「アニメだからこそ描けるもの」も重要になってくる。
*
6話のとあるシーンに注目してみたい。
おっこがクラスメイトの真月の家が営むライバルの「秋好旅館」に幽霊達と一緒に走って向っていくシークエンス。
ここでの、私服姿のおっこを春の屋とはまるで趣の異なる巨大かつ豪華絢爛なライバル旅館内でロングで捉えるシーン(8分過ぎたあたり)。
制作側にそのような意図があったのかどうかはわからないが、それによって本シーンでは巨大な旅館内にポツンと佇むおっこの姿がより強調されて描かれている、ように感じられる。
これまでは問題を解決しなければと奔走するおっこの純粋な気持ちや健気な姿を描いてきたが、本シーンでは、そういうおっこはまだまだ頼りない小さな小学生なのだという当たり前の事実が画面全体から洪水のように押し寄せてくるような感覚に襲われ、初めて見た時訳もなく涙が流れてきたのだ――
最適なロケーションを用意することだけを考えても実写で同じように視聴者に感じさせることは困難なはずだ。
アングルやロケーション、キャラ作画などを駆使し自在に組み合わせることによって何かを強調して表現することができるのがアニメが持つ力のひとつである。
実写で撮る場合に避けようがなく生じてしまう役者の実在感や肉感を消せることも大きいと思うが、それによって本シーンではおっこの純粋な気持ちや頼りなさといった表象だけを特別に強調して描けている、からこそ半ば無意識レベルで心の深くにある感情が刺激されるようなシーンになったのではないかと。
また、両親を早くに亡くした心に傷を負った子であるという設定が、このシーンで映し出されるおっこの根底にあるものとして我々視聴者の心に何がしかの影響を与えていることも無視できないだろう。
本シーンに限らず、この設定は様々なシーンでお話作りの大きな駆動力になっているし、同時におっこのキャラ造形(魅了)にも深く関わっている作品の核ともいえる重要な要素である。
再び等身大の少女の話に戻せば、おっこは他人を思いやる優しさを持っているが、完璧な性格を持ったよい子というわけでもない。時にはお客の態度や言動にいらっとして怒ったりと年相応な行動もとる。
ただ、そういう振る舞いを見せるおっこが両親を亡くしているという事実を知った時には、少なからずお客のおっこへの見方に変化は起きるだろう。そういう辛い境遇を生きる少女が、そうとは感じさせず思いやりの気持ちで一歩踏み込んで自分に接してくれる、からこそ気難しいお客もおっこにだけは心を開いて自分が抱える問題を打ち明けるのだと思う。
「話しやすい」というのはおかみの資質として非常に重要であると思うが、おっこはそのある意味持って生まれた天賦の才に近い資質を備えているのだ。
「両親の死」というものを視聴者の同情を誘うためだけの設定には終わらせず、それがあって今のおっこの性格や人としての魅力があり、おかみの資質が形成されていると確かに感じさせてくれる作劇。
シンプルな物語ながら、原作者の緻密な設定の練り込みとお話作りの巧さを感じると先に述べたのはこういったあたりである。
*
ここまでおっこが何故魅力的なのかについて主に等身大の少女という側面から見てきたが、その魅力を決定づける上で最も重要なのはおっこ役を務めた小林星蘭さんの好演といって間違いない。
おっこ役としてこれ以上のキャスティングは考えられないと思える小林さんの声の存在感は、ヒロインの魅力だけに留まらず作品の魅力そのものといっても決して大袈裟ではないだろう。
幽霊達との楽しい掛け合いも本作の大きな魅力だが、こういったファンタジー設定は一歩間違えるとお話の核がブレたり説得力がなくなる原因になりかねないものでもある。
本作では、おっこの元にお客の情報を運んできたりと幽霊達がお話の種を作る&展開を促す重要な役割を担っているが、問題の発生に際しては、幽霊達の助けを借りて解決する楽しさもありつつ、おっこが自分の力で問題に対処し成長していく姿もしっかり描けている。
このあたりのバランス感、幽霊達の存在を上手に活かした作劇も見事である。
他、お気に入りのエピソードなどまだまだ紹介したい本作の魅力は多いが、これ以上は語りすぎというもの。あとは実際に作品を見てもらってその魅力を感じていただければと。
劇場版は監督などテレビ版とは異なるスタッフで制作されており、キャラデザもお話の質感もテレビ版とは異なるので(劇場版は両親の死によりスポットを当てて大きなクライマックスを迎えるように構成された吉田玲子氏による脚本や、絶賛の声を多く生んだ高い作画クオリティなどが見どころ)、もしどちらかを先に見て作品が気に入ったならば是非両方鑑賞することをおすすめします。
執筆者 : PIANONAIQ (@PIANONAIQ)
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