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★【名作】『ボンバーマンジェッターズ』(2002/Ave.90.6) text by PIANONAIQ

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作品NO.72 『ボンバーマンジェッターズ』




ボンバーマンジェッターズ 7 81


 

ボンバーマンジェッターズ レーダー小 【名作】 4クール


世界観:95 脚本/構成:90 演出:90 
キャラ:90 演技(声優):100  引き:80 劇伴:90 作画:90


Ave.90.6   詳しくはこちら     ネタバレ厳禁度:★★★★☆





2002年10月~2003年9月
テレビ東京系
全52話オリジナル(原作・原案:ハドソン
人間ドラマ・兄弟・バトル・ギャグ・コメディ・シリアス・泣き




監督:小寺勝之
シリーズ構成:前川淳
クリエイティブディレクション・キャラクター原案:水野祥司
キャラクターデザイン・作画監督:香川久
メカニックデザイン:常木志伸
美術監督:坂本信人
色彩設計:もちだたけし
音楽:丸山和範
アニメーション制作:スタジオディーン




<キャスト>


シロボン:金田朋子
マイティ:高橋広樹
シャウト:水野理紗
バーディ:岩崎征実
ガング:柳原哲也(アメリカザリガニ)
ボンゴ:平井善之(アメリカザリガニ)
Dr.アイン:緒方賢一
ボン婆さん:麻生かほ里

バグラー:麦人
ムジョー:石井康嗣
Dr.メカード:龍田直樹

 



《ワンツイートレビュー》



ご当地ゆるキャラのような可愛らしいキャラ達が繰り広げる強烈に心揺さぶるストーリー色彩感豊かな背景美術(世界観)情感溢れる劇伴が魅力。ギャグを基調としながら「泣ける名作アニメ」と評してもよいシリアスさが醍醐味。本作が描く兄弟の物語はきっと多くの方に深い感動を与えることだろう。







■ はじめに




 「~といえば名作」、というように常に名作とセットで語られる作品(例えば『電脳コイル』や『CLANNAD』など)が稀にあるが、今回ご紹介する『ボンバーマンジェッターズ』 (以下、「ジェッターズ」)もおそらくそういう作品であるだろう。


 しかし残念なことに、2019年6月現在、大元が人気ゲームタイトルであることに起因する版権問題が原因、であるかどうかはわからないが、配信サービスで視聴することが不可能な状況が長く続いていおり、なかなか手を出せない作品となってしまっている。本作が「隠れた名作」「知る人ぞ知る作品」といわれる背景にはこうした状況が少なからず関わっているようにも思う。



 DVDボックスは早くから入手困難となっていたそうだが、2016年2月には遂にファン待望のBDボックスが発売されることとなり(初回版には特典として登場人物達が勢揃いした新録のドラマCDも付属。初回版はこちら。通常版はこちら)、これが今現在本作全52話を完走するための唯一・最善の手段となっているのが現状だ。


 ポンとそれなりの値がするボックスをいきなり買うのは多くの方にとって決して低いハードルではないだろう。そこで、作品未見者に購入を促すような優れた紹介記事があればよいのに、と思いネットを見回してみると、作品の性質上どうしてもネタバレに踏み込んだ内容の記事が多く溢れてしまっているのも悩ましく感じるところだったりする(もちろん見終えてからこうした記事を読み漁るのは楽しいのだが)。


 今回の記事では、こうしたハードルの高さを少しでも解消し多くの方に本作の素晴らしい物語を味わって欲しいという想いのもと、「深夜アニメの歩き方」の趣旨に基づき、ネタバレに踏み込まずに本作の魅力や見どころ、名作といわれる理由などについてできる限り書き記してみたいと思う。


 
 


《目次》



◇ 『ボンバーマンジェッターズ』ってどんな作品?
◇ 『ボンバーマンジェッターズ』、ここが見どころ

◇ 【視聴ガイド】




ボンバーマンジェッターズ 1 42






◆ 作品評価     【名作】   



傑作 絶対観た方がよい作品 
【名作】 観るべき、マストではずせない作品 
【良作】 観た方がよい(がマストではない)作品
【佳作】 時間があるなら観ることを勧めたい作品 
【水準作】 普通だが見どころはある作品

【凡作】 酷いが全否定ではない、どこか残念な作品 
【失敗作】 ほぼ全否定、何とも残念な作品 
【駄作】 取り上げる価値もない作品


【傑作・名作】 傑作と名作の中間
【傑作>名作】 傑作寄り
【傑作<名作】 名作寄り
※惜作 (名作になりえた惜しい作品)
※超神回 (ずば抜けて素晴らしい名作回がある作品)

◆ 作品評価順リスト(=「見て損はない作品」ランキング )はこちら




 
◆ レーダーチャート評価   


ボンバーマンジェッターズ レーダー
【総得点/Ave.】   725/90.6
――――――――――――――――――――――――――――――――
世界観 : 95
脚本/構成 : 90
演出 : 90                 グループA:Ave. 91.7
――――――――――――――――――――――――――――――――
キャラ : 90
演技(声優) : 100             グループB:Ave. 95
――――――――――――――――――――――――――――――――
引き : 80 
劇伴 : 90                 グループC:Ave. 85
――――――――――――――――――――――――――――――――
作画 : 90         
――――――――――――――――――――――――――――――――


100 唯一無二、これ以上はそうそう望めない最高峰 
95   最高、傑作レベル、文句なし、その作品にとってなくてはならない 
90   めちゃくちゃ良い、名作レベル
85 
80   かなり良い(強い、巧い)、良作レベル 
75   良い(強い、巧い)
70   なかなか良い(強い、巧い)、佳作レベル
65
60   普通、水準作レベル、少々物足りないが及第点は出せる 
50   凡作レベル、2流  30  失敗作レベル、3流  0  駄作・愚作レベル


※ 各パラメータが含むもの、点数の付け方など、詳しくはこちら
※ Ave.と作品評価は別、つまりAve.が75でも【名作】にすることは可能
※ これまで扱った全作品の採点等は作品評価順リストの方に纏めています





◆ ネタバレ厳禁度   



★★★★☆  (要注意。ネタバレによって面白さ・衝撃度が低減する可能性あり)


※詳しくは本文にて 





 

◇ 『ボンバーマンジェッターズ』ってどんな作品?





 本作は、グッズ化やゲーム化などによりボンバーマンのブランド強化を図った活動「ボンバーマン ルネッサンス」の一環として放送され、その主軸を担ったTVアニメ作品である。


 「宇宙に一つしかないもの」を奪いまくる悪の組織(?)・ヒゲヒゲ団に対抗するため、Dr.アインが組織した正義の部隊・ジェッターズの活動を軸に、伝説のボンバーマンとして皆に慕われるマイティを兄に持つ主人公・シロボンの活躍と成長を描く、というのがあらすじとなる。



ボンバーマンジェッターズ 9 86



 声優・金田朋子の演技力と存在感がとことん光り、これ以外はあり得ないとすら思える絶妙なキャスティングとなったシロボンを中心に、基本的にはギャグやコメディー路線の楽しい作品であるが、「まさかボンバーマンでここまで描くとは」というシリアスかつ伏線を活かした巧みなストーリー展開もあり、この両極の振れ幅とギャップが多くのファンを魅了する本作の作風を形作っているといえる。



 物語後半、4クール目に入ると、それまでにばら撒かれた伏線が次々と連鎖・回収されていき最終話まで一気に駆け抜けるような怒涛の展開が続くことになる。前半のほのぼのした平和で楽しい雰囲気とのギャップはかなり激しいものになるが、その面白さはまさに止まらない面白さといってよいものである。



 本作は「子供に見せたい作品」というコンセプトを持って制作された作品でもあるが、最終話で示される力強いメッセージなどはまさにそのコンセプトが最後まで貫き通された証といえるものであろう。シロボンの成長はもちろん、他の登場人物達の心情描写も丁寧に描く本作の美点(見どころ)は数多い。次項ではそのあたりをより深く掘り下げていくことにしよう。





 

◇ 『ボンバーマンジェッターズ』、ここが見どころ





ボンバーマンジェッターズ 4 78



 子供に向けて作られた作品だが、本作における諸々の描きやクオリティは大人やアニメ玄人達(=オタク?)をも唸らせるものであり、子供騙しだと感じる部分は一切ない、というのが全話見終えての筆者の印象である(普段アニメをほとんど見ない非オタ層にも刺さる作品ではないだろうか)。


 作風の基調となっているギャグのセンスとその見せ方(演出)も非常に優れているという印象だ。例えば、ジェッターズのメンバーであり本作の笑いを象徴するようなキャラであるボンゴ(上図右)とガング(上図、左上)は芸人であるアメリカザリガニの二人がそれぞれ声優を担っており、非常に良い味を出していたりする。36話では二人が漫才を披露するシーンなどもあり注目だ。



 シロボンとジェッターズのリーダーであるシャウト(上図中央)、Dr.アインボン婆さん、など各キャラがペアを組んで毎回定番のように掛け合いを行う、といったように作中で間髪入れずギャグを挿み込むノリが徹底されているのが本作の大きな特徴。敵対する関係にありながらヒゲヒゲ団とジェッターズの攻防においても、そこには殺し合うという張り詰めた緊張感はなく、こちらが長い時間かけて攻撃を繰り出すのをわざわざ敵が待ってくれるような、やはり笑いと平和なムードが根底にある描きがなされる(こういったギャグを下敷きにした敵との緩い関係は昔のアニメでは割と多く見られた懐かしさを感じるものでもある)。

 どこか憎めない敵、という役回りではあるものの一歩間違えば作品の拙さや粗にもなりかねないこのような描きを成立させてしまっているところに実は本作の周到ともいえる凄さ――ギャグのセンスだけではないキャラ造形や背景美術含めた世界観に関わる設計や計算されて練られた設定の妙――がある、と筆者は考えている(ちなみにコメディ回においても重大な伏線が張られていることもあり、その辺も巧みなストーリー展開と評す要因のひとつである)。

   


ボンバーマンジェッターズ 3 90



 上図のように、本作はご当地ゆるキャラのような可愛らしいキャラ達による物語だが、この点が誰の目にもすぐわかる最大の外見的特徴にして最大の内面的強さを生み出している部分なのである。どういうことか?


 そもそも人間とはかけ離れた姿をしたキャラ達が生きる世界なので、視聴者である我々はシロボン達の世界をのっけから現実と比べるような目線や尺度で見るようなことはしない。これにより現実と比べることで気になってしまうような非リアリティに思える部分や描きにおける粗などを避けることができる。それでありながら、外見が現実と大きく違うことがむしろより強くキャラ達に感情移入・共感させる側面をも持ち合わせている、といったあたりが本作の内面的強さである。

 外見的特徴によって「可愛い」という萌えにも近い充実を感じつつ、平和なムードからシリアスな場面に変われば今度は一転して人形のようなキャラ達の悩みや葛藤、敵に打ち負けてボロボロになる姿が切実なものとして強烈に心に訴えてくるギャップ。「きかんしゃトーマス」といった作品にも似ているところがあるかもしれないが、このような感覚を味わえたことは私にとって新鮮な体験でもあった。


 そして、このような作品のいわば土台の上にあって我々視聴者の心を揺さぶり涙腺を強く刺激するのが、前述の「シリアスかつ伏線を活かした巧みなストーリー展開」というわけである。土台あってこそだが、「ジェッターズ」が世間で凄い、名作だといわれる大部分はおそらくここにあるといってよい。一体どんなストーリーなのか?


 と、ここで顔を出すのが冒頭で述べたネタバレ問題である。どんなストーリーなのか、何がシリアスなのか、どういうところが凄いのか、その核心部分を語ろうとするとどうしてもネタバレに踏み込むことになってしまうと。



 たとえネタバレしてしまったからといって本作の面白さが著しく失われることはない(とは思う)が、驚くべき展開に際し、それに直面するシロボンと視聴者の感情が同期するような物語設計になっているので、そこはやはりシロボンとともに我々視聴者も何も知らないまっさらな状態で物語に接するのがよりよい本作の楽しみ方ではないだろうか。



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 というわけで、詳細には触れないところまでで語るなら、ファンを虜にする本作のストーリーの中核を担っているのはマイティ(上図左)とシロボンという兄弟のエピソードである。1話で印象的に描かれる、弟想いの優しい兄の姿、伝説のボンバーマンとして皆に敬われている偉大な兄に憧れるまだまだ頼りない弟の姿はそういう意味で象徴的であり、これから始まるシロボンの成長物語を大いに予感させるものとなっている(ここでピンとくるものがあったならきっと本作の物語はあなたの心に強く響くことになるだろう)。

 またここでの「真のボンバーマンは、強くなくちゃだめなんだ」という、よくよく考えれば何故?と思ってもおかしくないセリフに妙な説得力があり気が付けば素直に頷かされているあたりも、やはり本作の世界観や設定の妙を感じる部分。キャスト陣の好演や絵、劇伴の力も大きく、こうした全てが注力し合うことで生まれるシーンの熱量でありセリフの説得力、と考えることもできる点では本作の描きを象徴するワンシーンである。


 伝説のボンバーマンとして敵味方問わず関わった者の多くに大きな影響を与えるマイティの存在は、例えるなら湖に落ちて波紋を起こす石のようなもの。マイティ自身の物語も含め、本作はマイティの存在を中心にして起こるキャラ達のドラマや心情変化を丁寧に描写していく



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 シリーズ構成・前川淳氏は本作について<子供番組だからこそ真剣に取り組んだって感じ。人の生死を真っ向から描いたら子供向けじゃないってことはないはず。>という風に述べている。




 「まさかボンバーマンでここまで描くとは」ともいわれるシリアスな側面を内包しつつ、本作の兄弟エピソードは4クールに渡って二転三転する巧みなストーリー展開と心に強く訴える名シーンを生み出しながら確かなテーマ性をも描き出していくのである。




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◇ 【視聴ガイド】



 

 4クールに渡る長丁場の物語なので、ストーリーの大まかな区切りやまとまりといった構成を頭に入れておいた方が視聴モチベーションを維持しやすくなる側面もあるのではないかと考える。そこで本項では、この辺がファンの間で「ジェッターズ」が凄いといわれるところ、注目話数などにも触れつつ4つのクールごとにその内容を簡単にまとめてみることにする(※ネタバレはもちろんしていませんが、「大まかな流れも知りたくない」「よりまっさらに近い状態で視聴したい」という方は本項を読まれない方がよいかもしれません)。



■ 1クール目 (1~12話)



 兄弟物語への大きな期待を抱かせるポテンシャル十分な1話で幕を上げる『ボンバーマンジェッターズ』。以降、最初の1クールは主にギャグやコメディなど本作の楽しい側面や世界観の魅力を存分に味わえる内容となっている。一方、シリアスな側面に関しては、キャラに死んでしまう身体としての生々しさが生じる様子が描かれる5話「地底ゴー!ゴー!ゴー!」に注目したい。まだ序盤だがこの時点で既にその力の片鱗を感じさせるものになっている。


 シロボンがボムを投げる躍動感あるバンクシーンは何度見ても気分が高揚する非常に力のある渾身の出来で、素晴らしいの一言だ。

 
 『ボンバーマンジェッターズ』という名を聞けば自動的に劇伴が流れ出す――それぐらい印象的な本作の要ともいえる劇伴は序盤からその力を存分に発揮している。例えば、ギャグが続いた後シリアスな場面に移行した時、瞬時に気持ちが切り替えられるのは情感溢れる劇伴の力が大きいからだろう。

 泣けるシーンの背後で必ずといってよいほど鳴っている琴線に触れる定番劇伴曲、ここぞという場面で流れ出し一気に視聴者の気分を高め物語に引き込む必殺の劇伴――丸山和範氏の劇伴あってこその『ボンバーマンジェッターズ』といっても決して大袈裟ではない。


 1クール目最後を締める11話「ママをたずねて三千光年」、12話「キャラボンを守れ!」の連続エピソードはどこか「ドラえもん」の泣ける名作回を彷彿させる味わいに仕上がっている。脚本を手がけたのは吉田玲子氏。個人的な意見だが、本作に数多くある泣けるとされる話数の内、吉田玲子氏の脚本担当回の割合はかなり高いものになっている印象がある。もともとそういうお話作りに定評のある方なので大いに納得するところでもあるが、「ジェッターズ」は氏の仕事ぶりにも注目したい作品である。



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 主役のシロボン(上図)は偉大な兄・マイティの弟とはいえ、ボンバーマンとしてあまりも未熟であり、はっきりいって周りに迷惑ばかりかけている問題児である。その上すぐ調子に乗る性格で謙虚さのかけらもない、ので本作を見始めた方の中には、そういうシロボンにムカムカしたり「嫌い」という感情を抱くこともあるかもしれない。主役の性格が悪く好きになれない、というのはエンタメ作品において決してプラスとはいえない部分。しかし本作の場合はこのマイナスとも思えるシロボンの性格があるからこそ後々の展開がより魅力的に感じられる、ともいえる作品なのだ。

 伏線を活かした巧みなストーリー展開、と先に述べたが、本作はこのシロボンの性格に限らず、例えばヒゲヒゲ団のジェッターズのゆるい関係など、あれ?と違和感を覚えたり駄目かな?と思った部分が最後には全て解消するように設計されている。兄弟エピソードに関しても、悪くいえばこの1クール目は少々不親切で視聴者を置いてけぼりにするような見せ方とも思えるものだが、最後にはやはりしっかり納得できる描きが用意されているので、挑戦的で大胆な構成という評価が個人的にはしっくりくるところだ。

 

■ 2クール目 (13~26話)





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 敵陣営にバラエティに富んだ造形の合体ボンバーマン四天王が現れ彼等との対決を中心に物語が進む2クール目は、本作の兄弟エピソードが持つ力(=シリーズ構成・前川淳氏曰く「人の生死を真っ向から描いた」本作の魅力)を存分に味わえるクールになっている。

 圧倒的なカタルシスでクールを締める25、26話(ともに前川淳脚本回)でのクライマックス展開と熱いドラマを見れば、何故ファンがこの作品を大きく評価するのかその理由がわかるはずである(挫折~自分を見つめなおす時間、憎めない敵役にスポットが当たる流れ、など少年漫画やキッズアニメの王道ともいえる熱く心に沁みる展開も充実している)。


 他、兄弟エピソードに関わる19、22、23、24話などはどれも注目すべき話数だ(泣ける話数としても本作屈指)。22話「マイティの一番長い日」は雨の音を物語に効果的に絡めるなど演出も素晴らしいものとなっている。



 兄弟二人を中心としつつ、その周りにいるキャラ達に起こる変化の描き方も秀逸である。23話「シャウトの涙」はタイトルの通り、シャウトにスポットを当てた回だが、これまで徹底してシロボンと喧嘩ばかりするシャウトの姿や文句を言い合う二人の関係が描かれてきたからこそ、ここでの変化が強烈に刺さる――そういう意味では、本作のギャグとシリアスの振れ幅の大きさやギャップの魅力を象徴するような話数ともいえるだろう(シャウト役の水野理沙さんの好演も光る)。



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 2クール目ラストで大きな一区切りを迎える本作だが、「ご当地ゆるキャラのような可愛らしい姿のキャラ達が繰り広げる強烈に心揺さぶるストーリー」はまだここで終わりではない。「二転三転する巧みなストーリー展開」と評した通り、最後にまだまだ大きなクライマックスとドラマが控えている。

 

■ 3クール目 (27~36話)





 26話で圧倒的なクライマックスを迎えた後、27話からはこれでもかと高まった物語の熱を一端クールダウンさせるような、ギャグを中心とした日常回や単発エピソード回が続くことになり兄弟エピソードは一時お休みとなる。


 全体を俯瞰して見た時、この3クール目が引きの強さという点では最も弱いということになるかもしれないが、前項で触れた漫才シーンが注目の36話33話「アインでボン!」などを筆頭に、ギャグ回としては相変わらずの質の高さを維持しているので、そういう点では十分楽しめるはずである。


 「ドラゴンボール」の天下一武道会をどこか思い出すような、ボンバーマン達によるトーナメントバトル大会が始まる34話「激闘! B-1グランプリ!!」からは再び物語は本筋へと接近し始め、それに伴い引きの強さも戻ってくる。



 3クール目と4クール目の境目は曖昧だが、ジェッターズの日常を描いた36話「密着! ジェッターズ24時」を3クール目ラストとしておこう。ここまで触れずにきてしまったが、謎多き存在としては本作の最重要キャラともいえるマックス(下図)の影が再び忍び寄る37話からいよいよラストへ向けて本筋が動き出すことになる。



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■ 4クール目 (37~52話)




 37話からの4クール目は、次々畳みかけるように謎が明かされこれまでの伏線が回収されていく怒涛の展開と止まらない面白さ最終話まで続く圧巻のクールとなっている。最後まで二転三転しながら深いテーマ性を描きラストでしっかり着地する構成は見事である。


 後期OP曲「ホップ!スキップ!ジャンプ!」が42話というかなり遅いタイミングから始まるが、これは歌詞の内容が本編とシンクロしているなどの理由あってのもの。そのシンクロの絶妙さから「隠れたアニソンの名曲」として知られる楽曲でもあるようだ(因みに、他の3曲の主題歌も皆秀逸な出来栄えである)。


 45、48話吉田玲子脚本回は物語大詰めにあって涙腺に更なる猛威を振るうこと必至の話数。「子供に見せたい作品」というコンセプトのもと制作された作品だが、実は子供以上に大人の方が強く刺さるのでは?ということを前者の話数においては感じるし、後者は4クール作品ならではの感動を味わえるという点も含めて本作の名作評価を決定づけるような、この作品を代表するような回でもあるだろう。





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最後に、


 ラストクールで特筆すべき点として忘れてならないのは、本クールを構成する16話中、2話を除いた全ての話数において小寺勝之監督自らが単独でコンテを切っていることである(偉業といってもよいものだろう)。


 最終4話など、本作の本筋に関わる重要話数の脚本を一手に引き受けたシリーズ構成・前川淳氏。キャラクター原案・クリエイティブディレクションとしてクレジットされ監督やシリーズ構成とともに制作において中枢的役割を果たしたのではないかと思われる水野祥司氏。この音楽あってこその「ジェッターズ」ともいえる本作の愛すべき劇伴を生み出した丸山和範氏。彩り豊かな本作の世界観を象徴し笑いと泣きのギャップの源にもなっている背景美術を作り上げた美術監督・坂本信人氏と色彩設計・もちだたけし氏――



一切不満なし、堂々の完結最終話を見終えてここまで迷いなく断言できる作品はそうそうないだろう。



 各スタッフがそれぞれ愛を持って丁寧な仕事で尽くしたとしても名作になる確実な保証はないのが総合芸術であるアニメ制作の難しさ。その中にあって『ボンバーマンジェッターズ』という掛け値なしの名作が生み出されたことに感謝し、そのかけがえのない物語を体験できた幸せをあらためて噛みしめながら筆を置くことにしよう。




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執筆者 : PIANONAIQ (@PIANONAIQ




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テーマ : アニメ・感想
ジャンル : アニメ・コミック

★【名作・良作】『アイドル伝説えり子』(1989/Ave.81.9) text by PIANONAIQ

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作品NO.71 『アイドル伝説えり子』




アイドル伝説えり子


 

えり子 レーダーチャート小 【名作・良作】 4クール


世界観:90 脚本/構成:80 演出:85 
キャラ:85 演技(声優):80  引き:75 劇伴:80 作画:80


Ave.81.9   詳しくはこちら     ネタバレ厳禁度:★★★☆☆





1989年4月~1990年3月
テレビ東京系列
全51話オリジナル
アイドル・音楽・ドラマ・サクセスストーリー・伝説




監督:アミノテツロー
シリーズ構成:小山高生
キャラクターデザイン:山内則康
音響監督:田中英行
音楽:渡辺俊幸
アニメーション制作:葦プロダクション




<キャスト>


田村 えり子:矢島晶子(歌:田村英里子
朝霧 麗:松井菜桜子(歌:橋本舞子
阿木 星吾:松本保典(歌:有待雅彦
大沢 洋:柴本浩行(歌:片山諭
仲田 靖子:鷹森淑乃
山形 麻美:本田知恵子
田村 雄介:土師孝也
田村 美奈子:滝沢久美子
田村 項介:飯塚昭三
朝霧 良子:榊原良子

 



《ワンツイートレビュー》



スマホもネットもない時代の芸能界とアイドル歌手活動の様子をリアルに再現するドキュメンタリー性と大映ドラマシリーズに通じる劇的かつ衝撃的な物語展開がもたらすエンタメ性の両立が魅力。「伝説」を描く最終話でのタイトル回収の鮮やかさ等、昨今のアイドルものとはまた違った感動を味わえる作品。


 
 


《目次》



◇ 『アイドル伝説えり子』ってどんな作品?
◇ 『アイドル伝説えり子』、ここが見どころ

◇ 【視聴ガイド】





アイドル伝説えり子 5 31






◆ 作品評価     【名作・良作】   



傑作 絶対観た方がよい作品 
【名作】 観るべき、マストではずせない作品 
【良作】 観た方がよい(がマストではない)作品
【佳作】 時間があるなら観ることを勧めたい作品 
【水準作】 普通だが見どころはある作品

【凡作】 酷いが全否定ではない、どこか残念な作品 
【失敗作】 ほぼ全否定、何とも残念な作品 
【駄作】 取り上げる価値もない作品


【傑作・名作】 傑作と名作の中間
【傑作>名作】 傑作寄り
【傑作<名作】 名作寄り
※惜作 (名作になりえた惜しい作品)
※超神回 (ずば抜けて素晴らしい名作回がある作品)

◆ 作品評価順リスト(=「見て損はない作品」ランキング )はこちら




 
◆ レーダーチャート評価   


えり子 レーダーチャート
【総得点/Ave.】   655/81.9
――――――――――――――――――――――――――――――――
世界観 : 90
脚本/構成 : 80
演出 : 85                 グループA:Ave. 85
――――――――――――――――――――――――――――――――
キャラ : 85
演技(声優) : 80             グループB:Ave. 82.5
――――――――――――――――――――――――――――――――
引き : 75 
劇伴 : 80                 グループC:Ave. 77.5
――――――――――――――――――――――――――――――――
作画 : 80         
――――――――――――――――――――――――――――――――


100 唯一無二、これ以上はそうそう望めない最高峰 
95   最高、傑作レベル、文句なし、その作品にとってなくてはならない 
90   めちゃくちゃ良い、名作レベル
85 
80   かなり良い(強い、巧い)、良作レベル 
75   良い(強い、巧い)
70   なかなか良い(強い、巧い)、佳作レベル
65
60   普通、水準作レベル、少々物足りないが及第点は出せる 
50   凡作レベル、2流  30  失敗作レベル、3流  0  駄作・愚作レベル


※ 各パラメータが含むもの、点数の付け方など、詳しくはこちら
※ Ave.と作品評価は別、つまりAve.が75でも【名作】にすることは可能
※ これまで扱った全作品の採点等は作品評価順リストの方に纏めています





◆ ネタバレ厳禁度   



★★★☆☆  (少し注意。ネタバレによって面白さ・衝撃度が少し低減する可能性あり)





 

◇ 『アイドル伝説えり子』ってどんな作品?





アイドル伝説えり子 8



 本作の主人公は芸能プロダクション・タムラプロ社長の娘として幸せに暮らしていた中学3年生の少女・田村えり子(上図)。彼女が芸能界を舞台にアイドル歌手としてデビューし様々な試練を乗り越えながらトップアイドルへと成長していく姿を描くサクセスストーリー、というのが大まかなあらすじであり作品の輪郭となる。「クレヨンしんちゃん」で有名な矢島晶子さんの主役デビュー作でもある。



 本作の大きな特徴でありまた特筆すべき点としては、実在のタレント・田村英里子(下図)とタイアップして制作されていることがまず第一に挙げられる。これにより、全話に渡って田村英里子の楽曲が使用可能となったことが、音楽面やライブシーンの充実につながったのはもちろん、放送当時の芸能界・アイドル活動の様子をリアルに描いた本作のドキュメンタリー映像的側面にもより大きな説得力を与えることとなった(※下図、通算3枚目となるシングル曲「真剣」も本編で使用されている)。



アイドル伝説えり子 6 61



  • 「魅せられて」 歌:ジュディ・オング
  • 「ブルー・ライト・ヨコハマ」 歌:いしだあゆみ
  • 「木綿のハンカチーフ」 歌:太田裕美
  • 「ギンギラギンにさりげなく」 歌:近藤真彦
  • 「人魚」 歌:NOKKO
 

 田村英里子が歌うOP曲「涙の半分」を筆頭に多くの挿入歌を作曲しているのは、上記のような大ヒット曲を数多く生み出し作曲作品総売上枚数で歴代1位を誇る大作曲家・筒美京平氏ということで(wiki参照)、音楽面の充実も折り紙付き、といってよい作品である(ED曲は田原俊彦中森明菜などやはり多くのアイドルに楽曲を提供している都志見隆氏作曲で、こちらもOPに負けない存在感を示している。編曲では、後にミスチルをプロデュースし時の人となる小林武史氏の名前も見受けられる)。


 物語面においては、主人公に次々と襲い掛かる不幸、強烈な悪役の造形、泥沼化して行くストーリー、劇的展開とカタルシス、それらを大仰に盛り立てる滝沢久美子のナレーションなど、『スチュワーデス物語』『スクール☆ウォーズ』『スワンの涙』といった多くの有名タイトルで一世を風靡した大映ドラマシリーズに通じる作風が特徴であるといえる(本編を見ていただければすぐに感じ取れるところなので詳しい説明は省くが、良くも悪くも何しろ大仰かつ濃厚なので、好みの大きく分かれるポイントではあるだろう。今の若いアニメファンには殊更大きなインパクトを与えることと思う)。 



アイドル伝説えり子 3 40



 wikiによると、『アイドル伝説えり子』は関連商品の売上が80億円にも達した大成功作であったようである(この成功により後番組として『アイドル天使ようこそようこ』が製作された、ともある)。



 筆者が本作を視聴したのは割と最近のことで、こうした成功云々、放送当時の様子や評判について詳しく語ることはできないが、今こうして筆を取っているのは、本作が紹介するに値する(紹介したいと心から思える)素晴らしい内容のアニメ作品であったから。


 最終話でタイトル通りの“伝説”を見せてくれる『アイドル伝説えり子』――


次項ではそんな本作の魅力、見どころについてもう少しだけ掘り下げてみることにする。





アイドル伝説えり子 4 31





 

◇ 『アイドル伝説えり子』、ここが見どころ





 本作について思いを巡らせてみると、

  • 作品を彩ったかけがえのない名シーンの数々
  • 伝説を見せてくれた最終話の充実とその後の余韻
  • 魅力的なキャラクター達の思い出

といったものが頭に浮かび、心に何か熱い感情の火が灯るような満たされた気分になる。


 これら全てに通じる本作の基盤となっているのが、先にも触れた、放送当時の芸能界や社会、世間で流行ったもの、風俗などを丁寧に描写した「時代を切り取った作品」としての側面である。



 平成元年(1989年)に放送を開始した本作が描くのは、スマホもネットもない時代の、まだまだ昭和の面影が色濃く残る芸能界



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 アイドル達が活躍する芸能界を中心に当時の文化や空気感を知ることができる歴史的資料としての価値も高い作品、というのは筆者の個人的見解を脱しない部分ではあるが、平成も終わり令和が始まった今「へー、この時代ってこんなだったんだあ」という視点を持ちながら視聴できるところはそのまま本作の面白さといってもよい部分ではないだろうか余談になるが、2018年のヒット作『ゾンビランドサガ』には昭和のアイドルと思わしきキャラが登場する。昭和のアイドル活動がどんなものだったか、彼女のバックボーンと価値観を知る上でも『アイドル伝説えり子』はもってこいの作品、かもしれない)。


 こうした当時の様子をかなり忠実に再現するドキュメンタリー性を土台としながら、そこに大映ドラマシリーズ特有の劇的な展開がもたらすエンタメ性が加わり本作の物語は紡がれていく。そこで中心的に描かれるのはもちろんえり子の成長でありその激動の人生ということになるが、えり子と彼女に関わる脇役達によって織りなされていく人間ドラマ――群像劇としての側面も本作の大きな魅力となっている。



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 上の画像はネットから借用させていただいたものだが、本作におけるキャラの存在感や配置、関係性を非常に的確に表したものとなっているので、以下これを使いながら本作の群像劇としての魅力を語る上で欠かせない主要キャラについて説明を進めていく。


 画像中央上に位置するのが本作の主人公・田村えり子。芸能プロの社長・田村雄介と元人気歌手・美奈子(画像右下)を両親にもち、二人の溢れる愛の中育ったえり子はまさにサラブレットといってよい、品の良さと優しい心、天性の音楽的素養を持った少女である。



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 その才能に寄せられる周りの期待とは裏腹に、音楽の道を志してはいなかったえり子ある出来事をきっかけに(この辺の展開が最初に目に飛び込んでくる大映ドラマシリーズの特色ともいえるものだろう)、アイドルを目指すことになるのだが、そこに待ち受けているのは苦難と波乱に満ちた劇的な運命である。

 両親から受け継いだ音楽の才能と、誰からも愛される人としての魅力、愛らしい笑顔はアイドルに相応しいもの。『アイドル伝説えり子』は彼女がトップアイドルとして、また一人の少女として成長していく姿を4クールに渡って丁寧に描いていく。



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 画像中央下にえり子以上の存在感で位置しているのは、本作もう一人の主人公といってもよい朝霧麗である(上図)。物語序盤から既にトップアイドルでありえり子の憧れの存在として登場するは、複雑な家庭環境を持ち両親の愛に恵まれずに育った背景などもあり(画像左下は麗の母親である朝霧良子)、えり子とは180度まったく性格の異なるキャラクターとなっている(最初はえり子に対し鋭い敵意を向けてくる)。

 本編ではこの二人の関係性(の変化)がほぼ4クールに渡って描かれていくことにもなるが、同じトップアイドルへの道を強い信念を持って歩む同志として、芸能界の先輩後輩として、あるいは友達として、時に二人が様々な立場で互いを認め合い心を通じ合わせる光景は実に感動的である。


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 周囲の大人達による思惑やより大きな運命によって二人の関係性は絶えず揺さぶられながら変化を続けていくが、そこで見られる歯痒くなるような展開や濃密なドラマはやはり大映ドラマシリーズならではの味わいともいえる部分であり、最後まで非常に見応えのあるものになっている(終盤、二人があるオーディションで一つの座を賭けて競うことになるが、そこで二人が見せる壮絶な闘いは、それまでの人間ドラマの集大成であり、またアイドルとしての才能のぶつかり合いでもあり、一見の価値のある極めて熱いシーンが畳みかけるように展開されていくこととなる)



 画像中央左右にそれぞれ位置する二人の男性(左:大沢洋 右:阿木星吾)は、やはり性格や立場はまったく異なるが、えり子と同じく音楽に真剣に向き合うところでは共鳴し合う才能溢れるキャラだ。

 浜田省吾をどこかイメージさせる人気ロックバンドのボーカルにして男性アイドル並みの人気を誇る阿木星吾(下図)は、えり子にとって頼れる兄貴的存在であり密かな想いを抱く相手……この二人の関係とやりとりも本作の見どころといえよう。


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 えり子星吾――性格も才能も志す音楽の方向性もまったく異なる4人がアーティストとしての直感で惹かれ合い同じステージで共演するシーンは本作でも屈指の名シーンとなっている。本作の群像劇が迎えるひとつのピークともいえる象徴的シーンだ。

 そのライブステージにたまたま居合わせた観客たち(モブ)はその場限りの奇跡の瞬間を目にした、というように描かれているわけであるが、おそらく視聴者である我々の多くもきっと同じように感じるはずである。キャラクターが脚本によって動く創作物語において、その中でも特に音楽を扱った作品でこうしたシーンに巡り合えることはそうそうないだろう。制作陣の綿密な計算からはずれたところで予想外の力が発揮されたのではないか?――そのように思えてならない本シーンは筆者にとってまさに奇跡のようなシーンである。




 他、画像上部左右に位置する女性二人(左:仲田靖子 右:山形麻美)はえり子を陰で支えるキャラクター達。強烈な悪役が物語の中央に居座る本作において、えり子を支え助けてくれる多くの脇役達は見る者にほっとできるような安心感を与えてくれるかけがえのない存在となっている(この点では、えり子が飼っている二匹の可愛らしいワンちゃん、フォルテシモピアニシモも本作のホームドラマ的側面に欠かせない癒し的存在である)。その中でもえり子にとって特に大きな存在であるこの二人には見せ場となるような回もしっかり用意されている(下図はえり子の親友・山形麻美)。


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 えり子のアイドルの道(夢)を妨害しようとする悪役によって執拗に繰り返される姑息極まりない行動は見ていて当然気持ちのよいものではないが(しかしそのやり方はなかなかリアルであり芸能界ものとしての説得力は感じられるものになっている)、それに打ち勝って成長していくヒロイン、というドラマの作り方とそこで生まれるカタルシスもまた大映ドラマシリーズならではといえる部分である。憎き悪役、といえどその生き様をしっかり描いてくれるところも本作の大きな見どころだ。



 以上、このような敵味方含め多彩な、それぞれの思惑と立場を持ったキャラ達によって『アイドル伝説えり子』の物語は紡がれていき、最後に「アイドル史に刻まれし伝説」が描かれるのである。



 次項では、4クールに渡る長大な物語の視聴をスムーズに進めていくのに役立つと思われる情報について書き記し本稿を終えることにする。
 




 

◇ 【視聴ガイド】





 大映ドラマシリーズの特徴として挙げられる次回への強烈な引き、という点では本作も例に漏れず割と高いモチベーションを維持しながら見続けられる作品であるとは思うが、4クールという長尺にあってどうしても視聴が滞ってしまう(退屈に感じてしまう)局面があることも経験上予想できるところではある。
 

 そこで本項では、最後に描かれる伝説(完走)まで出来るだけスムーズに視聴を進められるように、4クールを大きく二分する構成と、その各構成の中に幾つか存在する物語的まとまり、注目話数などについて初見者の視聴のお供になるようなガイドとして整理してみることにする。注目話数に関しては、もちろんネタバレには配慮しているが、~話が名作回、という情報すら目に入れたくない作品未見者の方は(視聴後まで)読まれないことをお勧めします。(「そして伝説へ……」編へ飛ぶ

 


1話~39話  「目指せトップアイドル!」編





 アイドルになろうなどとは露ほども考えていなかったえり子が、大きな運命の渦に巻き込まれるように芸能界に入りトップアイドルへの道をひたすら突き進む、本編の約4/5を占めるまさに『アイドル伝説えり子』 の本伝ともいうべきパートがこの「目指せトップアイドル!」編だ(名前は筆者が適当に考えたもの、命名センスの無さについては悪しからず……)。


 『アイドル伝説えり子』という作品は少し興味深い構成になっていて、トップアイドルになることを最終目的とするならば、それは「目指せトップアイドル!」編ラストとなる39話年末ディスク大賞回で盛大なクライマックスを迎えてしまうのである。それは長きに渡って描かれてきた「えり子と麗の関係」についても同様で、そういう意味でも39話は本作の最終話といわれてもおかしくないほどのカタルシスに満ちた屈指の話数となっている。




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  • 1話~11話


 1話で衝撃的に幕を開ける本作の物語。このフェーズ(物語的まとまり)では、初めて大勢の観衆の前で歌う、初デビュー、などトップアイドルへの果てしない道を歩み始めたばかりのえり子の、右も左もわからない芸能界のアイドル歌手活動において初めての体験を重ねていく姿が中心的に描かれていく。


 劇的シチュエーションの中で閃く才能、には少し身震いしてしまうほどの高揚感があり序盤パートで散見される見どころであるが、この点で特に注目したいのは3話7話だ。『アイドルマスター』『ラブライブ!』などとはまた違ったカタルシスを感じられるのではないかと思う。


 8話は、友情を描いた良回。本作を彩る脇役陣の魅力を感じ取れる話数となっている。



 9~11話は、「えり子と麗の関係性」を描く最初の連続エピソード。しっかり信念を持ったライバルキャラがいると物語は引き締まることを実感させてくれる良エピソードだ。



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  • 12話~30話


 このあたりから悪役による妨害はその姑息さを増していくが、それと比例するように劇的展開の畳みかけの勢い、物語の面白さも増していく。(妨害のせいで)順風満帆とはいかないアイドルの道を歩み始めたえり子のアイドル下積み時代、そして地道な活動と努力が徐々に実を結び才能に磨きがかかっていく才能開花時代を描くのが本フェーズである。


 14~15話は地道な活動を続けるえり子がアイドルとして一歩成長する姿を描く連続エピソード。特に15話えり子の対比も光る良回となっている。


 16話は当時の様子を丁寧に描写する本作の細やかさと徹底ぶりに「ここまでやるか」と感心するアイドル地方営業回18話アイドル水泳大会回22話ラジオパーソナリティー挑戦回と、このあたりはどれもそういう観点で注目に値する話数。エピソード的にも脇役達の新たな魅力が顔を出すなど充実している。



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 20話が前項で触れた本作屈指の名シーンのある回。魅力的なキャラ達を作り上げたうえで、劇的シチュエーションを用意し絡ませる――そんな本作が持つ群像劇としての側面を象徴するシーンでもある。3話とリンクしているあたりも注目したいところ。

 余談だが、筆者の中にはエンタメ作品を見る時に「キャラ達の人生を見届けたいと思うかどうか」という指標のようなものがあり、それが良作以上の作品となるかならないかの分かれ目にもなったりするのだが、これでいえば本作はそのように思える作品である。   


 23話山中湖野外フェス回は、当時のアイドル歌手が実際に経験したであろうイベントをしっかり物語に組み入れてくるリアルさ、の中に外連味ある劇的展開を混ぜ込む按配がやはり魅力であると感じられる話数。このビッグイベントにおいてステージで歌われる楽曲が物語序盤からこれまで何度も使われてきたものである故に、そこにしっかりアーティストのレパートリー感を感じ取れるところも高い充実感をもたらす要因だろう。えり子ファンに愛される定番楽曲を大事に歌う姿が胸を打つ、ライブシーンの充実した話数ともいえる。


 との関係にさらなる変化が生まれる29話あたりでは、次へ次へ止まらない面白さが更に加速し、大映ドラマシリーズならではストーリーものとしての本作の強みをいよいよ感じられるのではないかと思う。そして二人の複雑な関係はクライマックスとなる次フェーズへと引き継がれて行く――



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  • 31話~39話


 「目指せトップアイドル!」編ラストへ向け、視野がぐっと広がり世界観の奥行きが増すような興奮する展開で一大局面に突入するフェーズ。長きに渡って描かれてきた「えり子と麗の関係」と「えり子のトップアイドルへの道」は遂にクライマックスを迎える――


 36、37話は、前項で触れた二人の壮絶な闘い(才能のぶつかり合い)が描かれるエピソード。カオスティックな熱量に圧倒されるシーンの凄みはきっと初見者の想像を上回るに違いない。

 


40話~51話  「そして伝説へ……」編





 本作の構成は興味深い、と先に述べたが、その大きな要因となっているのがこの「そして伝説へ……」編の存在である。ここで描かれるのはトップアイドルになるという大きな夢を叶えお茶の間の人気者となったえり子のその後の物語。外伝エピローグといわれてもしっくりくるような内容の静的なエピソードが、39話で圧倒的クライマックスを迎えた後ほぼワンクールに渡って紡がれる異色のパートともいえる。


 本パートでは、これまでアイドルとしての仕事に全てを捧げるように青春を慌ただしく過ごしてきたえり子が一歩立ち止まり、友達、学業に学生生活、自身の人生など忙しいアイドル活動の陰に隠れ疎かになっていた様々な部分にじっくり目を向けるような日常回的、あるいは脇役を中心に据えたエピソードが多く描かれることになのだが、そこで燃え尽き症候群のように思い悩むアイドルの姿があたかも「目指せトップアイドル!」編で十全に満たされ燃え尽きた我々視聴者と重なって見える(?)ような構成が興味深いのである。この点では意欲的な構成に挑んだ作品と評価することもできるだろう。



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 各エピソードの質は決して低いものではなく、これまでの積み重ねによる4クール作品の重みを心地よさとしてしみじみ感じられるシーンも多い。けれども、劇的展開の連続と強い引きを軸に終始緊張感のある中で物語が紡がれた「目指せトップアイドル!」編と比べると、トップアイドルになるという大きな目標がなくなったことでこうした本作の強味であった部分が急に影を潜める「そして伝説へ……」編に物足りなさを感じる方も少なくないのではないかと思う(何を隠そう、筆者もその一人である)。

 ただ、仮にそう感じられたとしても、ワンクールに渡って自身の内なる声に目を向け思い悩み続けたえり子が最後に導きだす答えと「伝説」が描かれる最終話までは何とかモチベーションを上げて辿り着いて欲しい、と切に願って止まないのである。




 46、47話は、アイドル活動と学生生活の両立を描いた珍しい回。重ね重ね述べてきた本作のアイドルものとしてのリアルな側面を感じさせてくれるエピソードになっている。



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 48話は、最終パート屈指のライブ回。観客席に勢揃いする脇役達の姿。皆がそれぞれの想いを胸にえり子の歌を聴く。そしてえり子は感謝の気持ちを歌に託す。幸福な光景に自然と涙腺が緩む4クール作品ならではの感動を味わえることだろう。



 50、最終51話は『アイドル伝説えり子』という作品を象徴するような、最後を締め括るにふさわしい連続エピソード。


 田村えり子という実在のアイドルが一昔前の日本に確かに生きていた――

そんな豊かで幸福な想像を喚起させるフィクションの力、キャラ総出のクリティカルな脚本、そしてまさに「伝説」というより他ない奇跡のような出来事を描いてみせたタイトル回収の素晴らしさとそれによってもたらされる心地よい余韻――



 
 伝説とは何か?それは是非あなたの目で確かめて欲しい、とそう切に。





アイドル伝説えり子 7






執筆者 : PIANONAIQ (@PIANONAIQ




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★【名作】『こーやのあろん』(Ave.88.1) text by すぱんくtheはにー

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作品NO.70 『こーやのあろん』




こーやのあろん 大 31


 

アンゴ レーダーチャート小5 【名作】 1クール


世界観:80 脚本/構成:95 演出:85 
キャラ:95 演技(声優):90  引き:85 劇伴:90 作画:85


Ave.88.1   詳しくはこちら     ネタバレ厳禁度:★★★☆☆





TOKYO MX、他
全13話オリジナル作品
恋愛・ラブコメ・アンドロイド・SF・アイドル




監督:山木賽
シリーズ構成:侍田堂了
音楽:kyokō
アニメーション制作:AI Pictogram

 



【作品紹介】



 少し懐かしい匂いのするドタバタラブコメでありながら、人間とアンドロイドの在り方「信じる」とはどういうことか? という問題に本作なりの回答を見せた誠実な態度に注目が集まった名作である。



 ところどころに強烈なパロディやシュールなギャグを挟み、アイドルものとしての文脈にも目配せしながらも、冴えない主人公「こーや」とメイド型アンドロイドあろん」の関係性を丁寧に描いていく手腕は、これまでアニメーションが描いてきたボーイ・ミーツ・ガール表現の豊潤さを感じさせるものだ。


 明るく楽しくそれでいて懐かしい恋心を思い出させるような本作の魅力は、二人が互いに向き合って手と手を取り合おうとするところで最高潮を迎えることとなる。


 合わせてそれとなく差し込まれる違和感によって、一部の「考察班」と呼ばれる人々の注目を集めていたことも特筆すべき出来事と言えよう。







ぼくらに星はみえるのか




すぱんくtheはにー(@SpANK888






 存在するものはなにか?虚構とはどこにあるのか?あるいはこれから先の「アニメーション」はどこに向かうのか?



そういった問題を喚起させる作品として『こーやのあろん』がある。




 放送中の盛り上がりや、本作の影響を受けた「Vtuberが素体に剥かれて配信する」(通称「バ素剥」)ブーム、あるいは後述する炎上騒動などで見ていなくともタイトルだけは記憶に残ってる方も多いだろう。


 だが本作が目指していたものはそういった一過性の流行ではない。これから先のアニメーションの在り方を思考し、ひいては「人と虚構の関係」にたいする問題提起と一つの回答を示した挑戦的作品が『こーやのあろん』である。


 それは「深夜アニメの歩き方」というこのブログタイトルに対しても、「歩いているのは誰/何か?そしてどこへ歩いていくのか?」という疑問を突き付けることでもある。それだけにここでの紹介に意味のある名作と言えよう。




 「深夜アニメの歩き方」はネタバレなしでの作品紹介を基本としているが、ここから先割と重大なネタバレに踏み込んだ内容になっていることはあらかじめ断っておく。
 殊この作品に関しは、配信サービス、円盤含め今現在(そしておそらくこれからも……)視聴することが極めて困難な状況であること、またネタバレしてもその面白さにさほど大きな変化はないだろうという筆者の判断のもと、思い切ってネタバレに踏み込んででも本作のテーマ性を論じることが結果的にこの「作品の意図」に少しでも光を当てることになると考えた、というのが主な理由だ。

 それとは別に、ネタバレ厳禁要素を含む作品でありながらあえてネタバレして語るだけのもうひとつの理由もあるのだが、これについては最後まで読んでいただければわかってもらえるだろう。本作の見どころ紹介だけに関していえば【作品紹介】で書いた内容だけで十分事足りているともいえる。よって、ここから先を読むかどうかは読者各自の判断で行っていただきたく思う




 以下、各話の内容と見どころを簡単に紹介した後、本作が描いた稀有なテーマ性が何だったのかについて論じることにする。

 

 



【目次】


◇ 各話紹介・見どころ
◇ 作品テーマについて







◆ 作品評価     【名作】   



傑作 絶対観た方がよい作品 
【名作】 観るべき、マストではずせない作品 
【良作】 観た方がよい(がマストではない)作品
【佳作】 時間があるなら観ることを勧めたい作品 
【水準作】 普通だが見どころはある作品

【凡作】 酷いが全否定ではない、どこか残念な作品 
【失敗作】 ほぼ全否定、何とも残念な作品 
【駄作】 取り上げる価値もない作品


【傑作・名作】 傑作と名作の中間
【傑作>名作】 傑作寄り
【傑作<名作】 名作寄り
※惜作 (名作になりえた惜しい作品)
※超神回 (ずば抜けて素晴らしい名作回がある作品)

◆ 作品評価順リスト(=「見て損はない作品」ランキング )はこちら




 
◆ レーダーチャート評価   


アンゴ レーダーチャート
【総得点/Ave.】   705/88.1
――――――――――――――――――――――――――――――――
世界観 : 80
脚本/構成 : 95
演出 : 85                 グループA:Ave. 86.7
――――――――――――――――――――――――――――――――
キャラ : 95
演技(声優) : 90             グループB:Ave. 92.5
――――――――――――――――――――――――――――――――
引き : 85 
劇伴 : 90                 グループC:Ave. 87.5
――――――――――――――――――――――――――――――――
作画 : 85         
――――――――――――――――――――――――――――――――


100 唯一無二、これ以上はそうそう望めない最高峰 
95   最高、傑作レベル、文句なし、その作品にとってなくてはならない 
90   めちゃくちゃ良い、名作レベル
85 
80   かなり良い(強い、巧い)、良作レベル 
75   良い(強い、巧い)
70   なかなか良い(強い、巧い)、佳作レベル
65
60   普通、水準作レベル、少々物足りないが及第点は出せる 
50   凡作レベル、2流  30  失敗作レベル、3流  0  駄作・愚作レベル


※ 各パラメータが含むもの、点数の付け方など、詳しくはこちら
※ Ave.と作品評価は別、つまりAve.が75でも【名作】にすることは可能
※ これまで扱った全作品の採点等は作品評価順リストの方に纏めています





◆ ネタバレ厳禁度   



★★★☆☆  (少し注意。ネタバレによって面白さ・衝撃度が少し低減する可能性あり)






 

◇ 各話紹介・見どころ





 本作前半では、主人公・康也(以下こーや)と高性能AI搭載のメイドロボットあろんの日常が描かれてゆく。



 第1話「ホームあろん」、ではこーやとあろんの家庭内での家事とドタバタが……例えば、お茶をいれる→こぼす、モップをかける→バケツをひっくり返す、窓を拭く→割る、料理する→焦がす、等々あらゆる考えつく失敗が引き起こされる。それがテンポ良く描かれていくことと、こーやの責めるつもりのない視線が作品にノスタルジィと優しさを添えている


 第2話「主従までの距離(ディスタンス)」では、こーやとあろんがふとした「言葉のすれ違い」から、メイドロボットの解雇騒動が巻き起こる。結果としてこーやの深い愛着と、メイドとして「主人を信じる意味」が描かれる。


 第3話「存在の隠せられない軽さ」は、追加キャラクターとして三人組アイドルグループ「N・P・C」が増えた上で、ひたすら4人のパンチラパンチラパンチラ。特筆すべきは「よくこんなに思いついたな」と感じるくらい、映るパンツの柄が毎回違うものになっていることである。


 第4話「愛しい熱帯魚」において、前話で登場した「N・P・C」の熱狂的ファンになったこーやを取り戻すために、あろんがアイドルデビューをする。恐らく作中最大のリソースをつぎ込まれて作られたライブシーンは圧巻の一言だ。


 第5話「CUTE」でアイドルを既に引退したあろんが「ご主人のために」の名目のもと、数十回の着替えに飽き足らずロボットの特性を生かして顔、体型、大きさから性別、人種、種族、武装に至るまで入れ替え始める(例えば最大まで拡張されたあろんが自己紹介するセリフは「狐耳クロコダイル手足増量複乳有線式ビーム砲装備メイドだニャワンチュー」という何が何だかわからないくらい肥大したものになっている)。

 ずっと「どんなあろんでもいいよ」と言い続けるこーやと、それを耳にしても着替えが止まらないあろんによって浮かび上がる歪み。つまり「あろんには人格があるのか?」という疑問が浮かぶ。主人を優先しない行動を起こすのは「自我」なのか、どんな姿にも同一性を見出せるのは「人格」なのか、そういった問いを投げかけてくる。


 それに対し第6話「こーやのワールド」が返す答えは、「人格は誰のためのものか」である。こーやとあろんのラブコメとして展開するなかで、二人は人とロボットの枠とは関係なくお互いを「大切な相手」として認め合う。「人格」があるかどうかなんて確かめようがないなら、関係性の中で「あると信じる」ことだけが全てだとこーやは結論づける。


 ついに結ばれるこーやとあろん。




 しかし、こーやの伸ばした手にあろんの手が触れようとした瞬間、本作は一変する



 あろんの瞳からハイライトが消え、こーやの姿は霧消する。いやこーやだけではない、周囲にいた他のキャラクターも建物も、背景のエフェクトもBGMも、彩っていたもの全てが消える。


 残っているのは僅かに溝のような道が付けられた真っ白な空間と、いくつか点在するオブジェクトのみ。その急変した映像を覆うように作品タイトル『荒野のALONE』が現れ、「ご主人」とポツリつぶやく場面でもって第6話は終了する。


 こーやのあろん 2 大 25



 以降の話では、まるで前半の内容に沿うように世界が崩壊していく姿が描かれる。


 実際は電子空間に描かれたヴァーチャルなものであった世界はシステムの不調により取り払われ、すでに人類が死滅した中では修復できる可能性は失われている。つまり第1話で描かれたような「日常」は、すでに跡形もなく消え去ってしまっているのだ。

 AIに存在している目的に従って、私たちの目にはまだ「あろん」に見える「それ」は、電子空間を移動しながら設定すべきマスターを探しながら、更に崩壊を続ける世界を観測することとなる。


 第8話では、第7話では可能であった、他のオブジェクトとのデータ交信が不可能になる。正確にはデータの送受信は可能だが、送られてくるものは意味不明な文字列となっており、こちらから送ったものも反応から察するに壊れた状態で届いているようである。つまり第2話での「言葉のすれ違い」と重なりながら、すれ違いすら拒絶される「コミュニケーションの不可能」が立ち上がってくる。



 同様に第9話では視点の減少により「あろん」の姿を前後のバストショット、左右の全体像、上下の鳥瞰/俯瞰で捉える映像と、「あろん」が見ているであろう一人称視点以外が無くなり、「パンチラ」を捉えることを可能としていた自由度の高いカメラワークは消失する。


 第10話では僅かに残っていた「道」も消失し、交差点などでなんとはなしに集まっていたオブジェクトたちは「ハブポイント」を失い、目印になる虚像(アイドル)が無いことで散り散りになっていく。


 第11話が始まった瞬間、視聴者はさらなるショックを受ける。前話まではそれでも可愛らしい姿を保っていた「あろん」は、素体とも言うべきか、マネキン人形のような無味乾燥な人型となって画面に映っている。ときおり体の一部や洋服がノイズを伴って現れるが、それも一瞬のこと。あとは「それ」が「ご主人」を探すために時々流れる内語のような音声が、「それ」を「あろん」と認識させるだけだ。



 第12話において「あろん」であった「それ」は、自分の探しているものが何だったのかすら忘れる。「あなた」という存在すら剥がれ落ちた世界で、何かを求めてただひたすら歩き回る。そのうち何か分からないものを求める声も後退し、ただその場で足踏みしてるようにしか見えない「それ」を残して、この回は終了する。


 そして最終話。画面には「それ」が踊っている。前半で流れたダンスシーンとはまったく違う、単純な振り付け、ぎこちない動き、流れる音も謎の電子音がピーピーと出るだけ。不気味と呼んで差し支えない映像



 それでも何か逆転が、大どんでん返しが、ハッピーエンドが、奇跡が起これと祈るように見つめる視聴者を裏切り、画面はブラックアウトする――


 「世界でもっとも放送事故に近い15分」と後に呼ばれる真っ暗な画面に時折ノイズだけが走る映像が続き、そのまま本作は最終回を終える。


※ちなみに製品版DVD/BR(どちらも現在入手困難な状態が続いている)ではノイズすらも消されており、監督インタビューでは「放送ルール上、黒い画面だけを流すことができなかった」とその理由が説明されている。






 

◇ 作品テーマについて





 そのあまりに救いのない終わりに、最終話放送直後【オレちょっと1話に帰る】という言葉が散見され、またそれに関するちょっとした炎上騒ぎも起こった(※下図参照。該当のまとめは既に削除されてしまったようで残念で仕方ないが、検索をかけスクショ画像は何枚か拾うことができたので参考までに)。




こーやのあろん 4 40

こーやのあろん 7 45



 そこで第1話を、今の最終話を引きづりながら見た少なくない視聴者(筆者もここに含まれる)は気がつく。


 今さっきの単調な振り付けが、ぎこちない動きが、不気味なダンスが、第1話で見せた「日常」の動きであることに。


 両手を胸で交差するのは、箒で掃く動作を左右の手でズラした動き。

 ステップを踏みながら手をひらひらさせるのは、階段を登る動きを再生/逆再生と繰りかえしながら右手は窓を雑巾で拭く弧を描くような動きを、左手はトースターからパンを取り出すための動きを、それぞれに倍速で繰り返したもの。

 横にスライドしながら口元に手を持ってくるのは、お茶を順番に注ぐときの足と失敗した料理を恐る恐る口に運んだ瞬間の手つき。


 他にも全ての振り付けが第1話の「日常」によって形作られていることを理解したとき、不気味な動きをしていた「それ」は再び「あろん」の姿に見えてくる。またキレイなダンスシーンを見たいと第4話を見返した視聴者は、ただの電子音だと思っていたものが、第4話で歌われてる曲のメロディを単音で音程もない中で可能な限り再現しようとしたものだと気付く。そのときただのピーピーという音は確かに「あろん」の歌声に変わる

 それすらも終わった真っ暗な画面に、視聴者は確かに感じている。見えないはずの「姿」を、聞こえないはずの「声」を、居ないはずの「存在」を、何もない闇の中に確かに感じてしまうのだ。こーやとあろんが「あると信じる」としたように、私たちもまた無のなかに「あろん」が「あると信じる」ことができる


 この瞬間、キャラクターの実在感――つまり私が「そのキャラクターがいる」と感じられるかは、二次元のキャラクターであることを越え、それどころか現実の人間ですら乗り越えていく。



 真っ暗で何も見えない音も聞こえない部屋に「その中には人がいます」と言われたところで、そのことに確信など普通は持てないだろう。


 だが、『こーやのあろん』を経た今は違う。何もない。何もないからこそ、そこに「あると信じる」ことができる。


 現実だから本当だ、虚構だから嘘だ。そんな単純な境界線で決めることはできない、いやその境界線すらもうすでに曖昧だ。

 VR、AR、ボーカロイド、ヴァーチャルユーチューバー、アバターレンズ、SNOW、インスタン、bot、ことだまったー、AI……現実と虚構の境目なんて、もう誰にも見えなくなって混じりあっている。




 現実の「そこにある」が持つ強度なんて本当は最初からボロボロだったのかもしれない。


 私たちの五感には現実に「そこにある」ものしか捉えることができない。それだけに現実に「そこにある」ことが、一番の存在証明でもっとも確かなことだと考えていた。

 だがそれは現実以上に「あると信じる」ことができるものが生まれていなかった間だけ通用した、か細く弱い理屈なのだ。


 【何もないからこそ、そこに「あると信じる」ことができる】ように、五感で確かめられることよりも強く「信じられる」もの、そういった「虚構」が存在していることに気づかされる。








 『こーやのあろん』第1話は「こんな日がずっと続くといいですね」というセリフで締めくくられた。


 私たちは「こんな日がずっと続く」ことを信じることもできれば、それでも「こんな日がずっと続かない」ことを信じることもできる。


 虚構の見せる複数の可能性が散らばった世界から一つの「応え」を導くのは、私の祈りにも似た「信じる」だ。


 アニメーションの発展は、虚構が私たちの祈りに応えてきた、その道程なのかもしれない。




 現実と虚構の壁なんて消えていく。



 これからのアニメーションは、きっと現実/虚構なんていう弱い境界を突破して、「信じる」世界を作り上げていくだろう。



 選択的な現実(アニメーション)へ、選択的な虚構(リアル)へ、そういう世界を私は信じる。






  • 『こーやのあろん』は平成32年1月~の放映を予定しております。ご期待ください。
  • 原案:すぱんくtheはにー『ぼくらに星はみえるのか』(LandScape Plius『PRANK! Vol.6 特集:日本アニメの新世紀』掲載 2018年)
  • イラスト・キャラクターデザイン:エーテライト@suzumaru294
  • アニメ『こーやのあろん』感想まとめ https://togetter.com/li/1355087





執筆者 : すぱんくtheはにー (@SpANK888



ブログ「ゲームばっかりやってきました」

https://spankpunk.exblog.jp/





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テーマ : アニメ・感想
ジャンル : アニメ・コミック

★【傑作>名作】『カウボーイビバップ』(1998/Ave.91.3) text by 闇鍋はにわ 

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作品NO.69 『カウボーイビバップ』




カウボーイビバップ 6 95


 

カウボーイビバップ レーダー5 【傑作>名作】 2クール


世界観:95 脚本/構成:90 演出:95 
キャラ:95 演技(声優):90  引き:80 劇伴:95 作画:90


Ave.91.3   詳しくはこちら     ネタバレ厳禁度:★★☆☆☆





1998年4月~6月
テレビ東京、WOWOW、他
全26話オリジナル作品
ドラマ・アクション・SF




監督:渡辺信一郎
原作:矢立肇
シリーズ構成:信本敬子
キャラクターデザイン:川元利浩
メカニックデザイン:山根公利
音楽:菅野よう子
アニメーション制作(TV版):サンライズバンダイビジュアル
(劇場版):サンライズボンズバンダイビジュアル




<キャスト(主要)>


スパイク・スピーゲル:山寺宏一
ジェット・ブラック:石塚運昇
フェイ・ヴァレンタイン:林原めぐみ
エド:多田葵

 



《ワンツイートレビュー》



洒落た台詞回しとビターな味わいを下敷きに毎回異なる姿を見せ、国内外を問わず熱狂的なファンを坩堝のように取り込んだSFアニメ。ノスタルジックになることを確信して作られたであろう、時代遅れ達に贈る子守唄。そしてセピア色に輝き続ける名作


 
 


《目次》



【あらすじ】

【本作について】
【本作の喫煙描写について】
【時代遅れ達の物語を、放送された時代から遅れて見る】


【視聴ガイド】


【作品を見るには】

【視聴終了後に閲覧をおすすめしたい感想】







◆ 作品評価     【傑作>名作】   



傑作 絶対観た方がよい作品 
【名作】 観るべき、マストではずせない作品 
【良作】 観た方がよい(がマストではない)作品
【佳作】 時間があるなら観ることを勧めたい作品 
【水準作】 普通だが見どころはある作品

【凡作】 酷いが全否定ではない、どこか残念な作品 
【失敗作】 ほぼ全否定、何とも残念な作品 
【駄作】 取り上げる価値もない作品


【傑作・名作】 傑作と名作の中間
【傑作>名作】 傑作寄り
【傑作<名作】 名作寄り
※惜作 (名作になりえた惜しい作品)
※超神回 (ずば抜けて素晴らしい名作回がある作品)

◆ 作品評価順リスト(=「見て損はない作品」ランキング )はこちら




 
◆ レーダーチャート評価   


カウボーイビバップ レーダー
【総得点/Ave.】   730/91.3
――――――――――――――――――――――――――――――――
世界観 : 95
脚本/構成 : 90
演出 : 95                 グループA:Ave. 93.3
――――――――――――――――――――――――――――――――
キャラ : 95
演技(声優) : 90             グループB:Ave. 92.5
――――――――――――――――――――――――――――――――
引き : 80 
劇伴 : 95                 グループC:Ave. 87.5
――――――――――――――――――――――――――――――――
作画 : 90         
――――――――――――――――――――――――――――――――


100 唯一無二、これ以上はそうそう望めない最高峰 
95   最高、傑作レベル、文句なし、その作品にとってなくてはならない 
90   めちゃくちゃ良い、名作レベル
85 
80   かなり良い(強い、巧い)、良作レベル 
75   良い(強い、巧い)
70   なかなか良い(強い、巧い)、佳作レベル
65
60   普通、水準作レベル、少々物足りないが及第点は出せる 
50   凡作レベル、2流  30  失敗作レベル、3流  0  駄作・愚作レベル


※ 各パラメータが含むもの、点数の付け方など、詳しくはこちら
※ Ave.と作品評価は別、つまりAve.が75でも【名作】にすることは可能
※ これまで扱った全作品の採点等は作品評価順リストの方に纏めています





◆ ネタバレ厳禁度   



★★☆☆☆  (ほとんど問題なし)





 

【あらすじ】





位相差空間ゲート]によって短時間で惑星間を航行できるようになり宇宙時代を迎えていた未来の太陽系。

 賞金の掛かった犯罪者を追って宇宙を飛び回る、通称"カウボーイ"と呼ばれる賞金稼ぎが生業のスパイクジェットは元マフィアと元警官。

 記憶喪失の上に莫大な借金を背負っている謎の女フェイ、野生児のような天才ハッカーのエド、人間並みの知能を持つデータ犬アインが加わって4人と1匹が惑星間航行船ビバップ号で奇妙な共同生活を送ることになる。



カウボーイビバップ 9



(公式サイト世界説明より)
http://www.cowboy-bebop.net/world/index.html



 

【本作について】





カウボーイビバップ 4 78



 1998年に放送された、アニメ史に名を残す大ヒット作。2001年には劇場版「カウボーイビバップ 天国の扉」も公開された。先進性と退廃性を併せ持つ舞台設定、人種要素の前面に出たキャラクターデザインなどが強固な立体性を持ち、個々の人物に安易な共感を許さぬリアリティを発揮させている。


 かと言ってアーティスティックで人を選ぶタイプかと言えばそんなことはなく、思わずリズムを刻みたくなるジャズやブルースなど菅野よう子の劇伴(サントラ第1弾は第13回日本ゴールドディスク大賞にて「アニメーション・アルバム・オブ・ザ・イヤー」受賞)、軽妙洒脱という表現がぴったりの小粋な台詞回しは視聴者を容易に作品世界へ没入させてくれる。特に主人公スパイクの常に軽口を忘れないタフさには憧れる人も多いだろう。



 底流にはハードボイルドタッチな描写によるビターさがあるが、主に1話完結で描かれる物語はむしろ雑多であり一本調子に感じられることはない。1人の人間の中に喜怒哀楽4色の感情全てがあるようにどの話も異色であると同時にスタンダードであり、本作の引き出しの多さを感じさせてくれる。



 本作の魅力を総括的に書けばこのようになる。とは言えこういった書き方では既に他の方が書かれているものに遠く及ばないだろうし、この作品は娯楽性に満ちているので前情報なしで見ても困惑することはない。

 本稿では放送から長い時間が流れた今だから気になる、あるいはいっそう強く感じられるであろう部分に絞って書いてみたい。






 

【本作の喫煙描写について】





カウボーイビバップ 2 78

カウボーイビバップ 3 78



 1998年放送の本作、初めて視聴した人は煙草の描写の多さに驚くことだろう。なにせ主要キャラ4人と1匹の内3人が喫煙者なものだから、画面に紫煙が漂う回は珍しくもないし、場面場面を印象付ける演出アイテムとして多用されてもいる。放送当時は健康増進法の施行前、公共の場所での喫煙がさほどおかしくないご時世だったにしても多い。今なら考えられない画面作りであり、同時代のものと比較しても本作の特徴となっている。


 しかし、ならば現在見るには演出や価値観が「時代遅れ」になってしまった古いアニメか……というとそう簡単には片付けられない。ゲストの少女のために禁煙ルールが設けられる回があるなど必ずしも「煙草、カッコいいだろ?」とだけ描かれているわけではないし、1話で何者か問われた主人公スパイク「時代遅れのカウボーイさ」と答えている。本作は「時代遅れ」というものに独特な感覚を持ち合わせているのだ。





 

【時代遅れ達の物語を、放送された時代から遅れて見る】





カウボーイビバップ 5 78



 本作の人類は木星の衛星や金星にすら居住圏を広げているが、その宇宙進出の経緯はけして煌びやかなものではない。事故によって地球がまともに住むのに適さない星になってしまい、否応なく宇宙に出ざるを得なくなってしまったというのが実情だ。そんな形で起きた急速な時代の変化は歪みをはらみ、それについていけず犯罪に走る人間(賞金首)を多数生み出す。本作の世界は、その歴史と構造自体が大量の時代遅れを生み出すようになっている


 時代遅れは時代についていけないが、彼らも当然生きている。しかし無理に差を埋めようとしてもできるものではなく、そんなことをした人間は時代と自分のズレに引きちぎられてしまう。多くの場合、本作はそうして死人を積み重ねていくのだ。酷いものになると、「スパイクともっと早く知り合えていたら友達になれた=出会うのが時代遅れだった」ために死んでしまう者もいる。


 そして、時代遅れの賞金首を捕まえて銭を得るカウボーイ(賞金稼ぎ)もまた、時代遅れの片割れであることに変わりはない(賞金首情報を提供する番組「BIG SHOT」は低視聴率にあえいでいる)。職業を抜きにしても、喫煙者の3人はどこかしらに時代遅れの要素を抱えてしまっている。そういう者同士で描かれるドラマだから、本作はいつも苦味を伴う



 人は誰しも歳をとり、いつか時代から遅れていく。自分が中心にいられた時代がどんなに素敵な場所であったとしても、そこにずっと居続けることも戻ることもできはしない。しかしそれは、過去の存在まで否定するものではない。



 どんなに古びて見えても、叶うことすらなかったものでも、それは確かに光り輝いていた。そしてその輝きはむしろ、遠くにあればあるほど増して見える。だから本作も演出が時代遅れになるほど、価値観が色褪せるほど逆に美しくなっていく。これから視聴した人はきっと、時を経て味わいを深めた古酒のように本作を楽しむことができるだろう。




カウボーイビバップ 12 70





 

【視聴ガイド】





 このように独特の味わいを持つ作品だが、基本的に1話完結のため視聴はしやすい。内容も煙草の演出の生きるハードボイルドに限らず、シニカルな回もあればゾワゾワするホラーもあり、浪花節じみた内容にしんみりさせられることもあればドタバタぶりに腹を抱えて笑ってしまうこともあるだろう。


 それぞれのジャンルの個性を強く持った劇伴に彩られ、一方で小粋な台詞運びによる統一感はどこまで行っても「カウボーイビバップ」を外れることはない。



 映像面も当時の手描きメカニックの金属の硬質感後のボンズへと繋がる豊かなアクションなど端的に言って隙がない。特に劇場版(下図)は画面サイズがTV版の4:3から変更されたことで、クオリティアップに留まらない世界の広がりを感じることができる。



 話数に関して言えば、多くの人の第1印象に則った格好良さは1話「アステロイド・ブルース」や3話「ホンキィ・トンク・ウィメン」で存分に感じられるだろうし、エドの初登場となる9話「ジャミング・ウィズ・エドワード」ではそれまでのイメージが覆されること請け合い。14話「ボヘミアン・ラプソディ」では彼方に行ってしまったものに寂しさを覚える一方、18話「スピーク・ライク・ア・チャイルド」では逆に遠くから励ましを受けたような心地になれる。


などと挙げてはみたが、全ての話数は代替不可の個性を持っているのでベストは見た人によって大きく変わるだろう。個人的には中尾隆聖の青年の演技が拝め、喪失感とそれ故の固定された過去の美しさを感じられる8話「ワルツ・フォー・ヴィーナス」を選びたい。




カウボーイビバップ 11 90
 

『カウボーイビバップ 天国の扉』(2001年)   





 

【作品を見るには】




NETFLIX、hulu、バンダイチャンネル、dアニメストア等

https://www.netflix.com/jp/title/80001305
https://www.happyon.jp/cowboy-bebop
https://www.b-ch.com/titles/130/
https://anime.dmkt-sp.jp/animestore/ci_pc?workId=11314






 

【視聴終了後に閲覧をおすすめしたい感想】




カウボーイ・ビバップ感想・考察|長年愛され続ける作品の理由
http://xn--u9j9e1eqdx275ccnra.com/cowboy-378

アニメの話題(@WadaiAnime)さんの、作品全体に通底するテーマを見事に突いた良文。読めばきっともう一度見たくなるはず。
「アニメの話題を語り合うブログ」より




カウボーイビバップ 1 85






執筆者 : 闇鍋はにわ(@livewire891


ブログ「Wisp-Blog」
http://craft89.blog105.fc2.com/

「カウボーイビバップ」24話はなぜゆで卵を食べるのか
http://craft89.blog105.fc2.com/blog-entry-3231.html





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★【名作>良作】『プリンセスナイン 如月女子高野球部』(1998/Ave.84.3) text by テリー・ライス

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作品NO.68 『プリンセスナイン 如月女子高野球部』




プリンセスナイン 50


 

プリンセスナイン レーダー 5 【名作>良作】 2クール


世界観:80 脚本/構成:90 演出:80 
キャラ:90 演技(声優):85  引き:80 劇伴:100 作画:70


Ave.84.3   詳しくはこちら     ネタバレ厳禁度:★★☆☆☆





1998年4月8日~10月14日
NHK-BS2
全26話オリジナル
スポーツドラマ(野球)・青春・熱血・恋愛・少女漫画・百合・神回




監督:望月智充
原作:伊達憲星
シリーズ構成:丸山比朗
キャラクターデザイン:橋本義美
キャラクター原案:山下明彦
音楽:天野正道
アニメーション制作:フェニックス・エンタテインメント




<キャスト>


早川 涼:長沢美樹 (ピッチャー/打順9番)
氷室 いずみ:金月真美 (サード/打順4番)
森村 聖良:氷上恭子 (セカンド/打順1番)
吉本 ヒカル:長沢直美 (ファースト/打順2番)
堀田 小春:矢島晶子 (センター/打順3番)
東 ユキ:川澄綾子 (レフト/打順5番)
三田 加奈子:笠原留美 (ショート/打順6番)
渡嘉敷 陽湖:飯塚雅弓 (ライト/打順7番)
大道寺 真央:進藤こころ (キャッチャー/打順8番)

毛利 寧々:川田妙子 (マネージャー)
高杉 宏樹:子安武人
夏目 誠四郎:岩永哲哉
氷室 桂子:榊原良子

木戸 晋作:石井康嗣 (監督)

 



【作品概要】



 名作OVAシリーズとして知られる「ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-」を制作したフェニックス・エンタテインメント唯一のTVアニメ作品にして女子高生×高校野球もの。今でこそ「少女×特定ジャンル(またはスポーツ)もの」はありがちな題材ではあるが、当時のTVアニメにおいては、まだまだ珍しい作品スタイルであった。




プリンセスナイン 写真 ED 38



 監督はジブリ作品の「海がきこえる」やサンライズの勇者ロボシリーズ「勇者指令ダグオン」「らんま1/2(第一期)」、近年では「バッテリー」(2018年)を手がけた望月智充


 音楽は「ジャイアントロボ」に引き続き、天野正道ワルシャワフィルハーモニーオーケストラが担当。その重厚かつ勇壮な旋律に乗せて、作品を過剰なまでに盛り立てる。


 余談ではあるが、のちに新海誠監督の「君の名は。」、また「とらドラ!」や「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」などのキャラクターデザインで世に知られることになるアニメーター、田中将賀のキャリアスタート作でもある(※本作では動画で参加)。





【あらすじ】



プリンセスナイン アバン 39



 かつて高校野球とプロ野球を沸かせた男がいた。名を早川英彦――。将来は日本を背負って立つエースとさえ期待された彼はとある事件を機に、忽然と姿を消してしまう。



 それから20年後。


 彼の血を受け継ぐ少女、早川涼は父と同じく野球の才能に恵まれていた。涼の天賦の才に目を付けた名門お嬢様学校「如月女子高校」理事長、氷室桂子は女性だけの野球部を創設、彼女を特待生として入学させる。そして男子と対等に戦えるチームを作り上げ、甲子園出場を宣言するのだった。




 これは早川涼を中心に集まった、如月女高校野球部がさまざまな障害を乗り越え、甲子園を目指し奮闘する青春野球ドラマである!




プリンセスナイン 3 80
 

 


《目次》



【みどころ】

■ 作品の特徴

■ 登場人物について
■ 音楽について
■ 注目話数


【作品を観るには】







◆ 作品評価     【名作>良作】   



傑作 絶対観た方がよい作品 
【名作】 観るべき、マストではずせない作品 
【良作】 観た方がよい(がマストではない)作品
【佳作】 時間があるなら観ることを勧めたい作品 
【水準作】 普通だが見どころはある作品

【凡作】 酷いが全否定ではない、どこか残念な作品 
【失敗作】 ほぼ全否定、何とも残念な作品 
【駄作】 取り上げる価値もない作品


【傑作・名作】 傑作と名作の中間
【傑作>名作】 傑作寄り
【傑作<名作】 名作寄り
※惜作 (名作になりえた惜しい作品)
※超神回 (ずば抜けて素晴らしい名作回がある作品)

◆ 作品評価順リスト(=「見て損はない作品」ランキング )はこちら




 
◆ レーダーチャート評価   


プリンセスナイン レーダー
【総得点/Ave.】   675/84.3
――――――――――――――――――――――――――――――――
世界観 : 80
脚本/構成 : 90
演出 : 80                 グループA:Ave. 83.3
――――――――――――――――――――――――――――――――
キャラ : 90
演技(声優) : 85             グループB:Ave. 87.5
――――――――――――――――――――――――――――――――
引き : 80 
劇伴 : 100                 グループC:Ave. 90
――――――――――――――――――――――――――――――――
作画 : 70         
――――――――――――――――――――――――――――――――


100 唯一無二、これ以上はそうそう望めない最高峰 
95   最高、傑作レベル、文句なし、その作品にとってなくてはならない 
90   めちゃくちゃ良い、名作レベル
85 
80   かなり良い(強い、巧い)、良作レベル 
75   良い(強い、巧い)
70   なかなか良い(強い、巧い)、佳作レベル
65
60   普通、水準作レベル、少々物足りないが及第点は出せる 
50   凡作レベル、2流  30  失敗作レベル、3流  0  駄作・愚作レベル


※ 各パラメータが含むもの、点数の付け方など、詳しくはこちら
※ Ave.と作品評価は別、つまりAve.が75でも【名作】にすることは可能
※ これまで扱った全作品の採点等は作品評価順リストの方に纏めています





◆ ネタバレ厳禁度   



★★☆☆☆  (ほとんど問題なし)


 



【みどころ】


■ 作品の特徴






 とにもかくにも、本作は今も放映当時も無くなって久しい「熱血スポ根ドラマ」を女性主役、それも高校野球ものという王道の題材で描いていることに尽きる。高校球児たちが争う甲子園、全国高校野球選手権の優勝を女子高生だけのチームが目指す事が本作の主題である。この無謀ともいえる荒唐無稽な筋立てによって話は展開されていく。作品の大前提によって降りかかる困難を主人公、早川涼を始めとする8人の少女たち+αが立ち向かい、乗り越えていく物語だ。が、こんな途方もない挑戦を描けてしまうのもアニメだからこそであり、創作物で感じられる醍醐味のひとつであるだろう。



プリンセスナイン 17 79



 「女子高生が本気で甲子園出場を目指す」という大きな特徴によって、古き良き王道野球マンガのストーリーが今までに無い切り口で提示されている事が作品の大きな強みだ。少女たちの可憐さを押し出すのではなく、野球というスポーツに懸ける彼女たちの「情熱」と「強さ」を描いている点でも一線を画す。特に「男性と対等に戦う女性」という構図においては、今なお通用する描きを持っているだろう。


 この為、野球の試合シーンが秀逸というよりも、女性が男性主体の競技スポーツの中で戦う困難さを乗り越える事が一つの軸でもある。もちろん作画的に目を見張るシーンもいくつかあるが、試合に勝つためにあの手この手を尽くす様子や主人公、早川涼(下図下)のメンタル面なども大きく描かれる。また肉体的ハンデをフォローするために、野球マンガの定番要素も欠かさず入れてくる点には制作陣の「使える手段は全て使う姿勢」が窺えてきて頼もしい。



プリンセスナイン 7


プリンセスナイン 4 60



 物語展開に目を移すと、作品の骨子である「熱血スポ根ドラマ」に並行して「少女漫画」的な恋愛関係も描いている点にも注目したい。これも女性が主役のスポーツドラマであるところが大きく起因しているが、「熱血スポ根ドラマ」のストーリーラインだけをとってみると非常に少年漫画的な色合いが強い。だが一方で思春期の少女の心理と恋愛感情を描く少女漫画テイストの物語が絡み合っており、作品的にはハイブリッドな魅力を生み出しているのも特徴の一つだ。
 
 加えて、その少女漫画要素の中には当時まだ顕在化していなかった、少女間の密な関係性・見えない「絆」といった今で言うところの「百合」要素も多分に含まれており、物語のエモーショナルな部分へも一役買っている事も見逃してならないだろう。



プリンセスナイン 5



 本作はシリーズ構成が非常に秀逸な作品でもある。1話毎をきっちりとした起承転結で区切らず、流動的な要素は先の回へと引き継ぐという形をとっており、物語展開の中でキャラクターたちにスポットを当てながら、メインシナリオも着実に進めていく形なので、伏線の張り方や何気ない描写によるキャラクターの掘り下げ方が見事だ。奇抜な事は一切しない、物語の流れに寄り添った作りによって、サブシナリオがメインシナリオにも関連しており、余計なシナリオがほぼないのもスマートな印象を持つ。エピソードをちゃんと積み重ねていった結果、クライマックスの盛り上がりと高揚感がしっかりと感じられるのは高校野球ものの基本を外さずに、作品の魅力を引き出せているからだろう。



 シナリオもそうだがキャラクターも扱いの差はあっても、物語上不要なキャラクターは一人もいない。野球部部員9人にはドラマの進行上、何かしらの見せ場があり、なおかつその分の成長を感じられるようになっているのが作品としても心強い箇所だ。惜しむらくは提示されていながらも描かれなかった伏線がいくつか存在していること。大なり小なり、後の物語において描かれたろうものなのだが残念ながら現在に至るまで、その物語に続くページはいまだ白紙のままである。



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 またテーマの方に目を移していくと、物語の裏には「父性」が見え隠れしている。出てくるキャラ全員が全員、「父性」に捕らわれているわけでもないが、主人公であるなどは「亡き父への憧憬」と「エースの条件」、はたまた「恋心」にまで揺らされてしまうし、他方に目を移しても、「父性」を軸にしたエピソードが組み立てられているキャラクターは多い。特に如月女子ナインの打撃の主軸でもある、堀田小春(下図)などは終盤にこのテーマで見せ場のあるキャラだ。もちろん肉親だけではなく、本作に登場する男性に対してそれを感じるキャラクターもいる。先に説明した「少女漫画」要素の通り、恋愛要素も外していない作品だからこそ垣間見えるテーマだとも言えるはずだ。



プリンセスナイン 6



 ここまで作品の特徴を書いてきたが本作はありがちな美少女ものではなく、本気で「女子高生たちが甲子園出場を目指す」スポ根野球アニメであり、その描きは98年という年代を考えても、泥臭く大仰なストーリーが繰り広げられている事は強調しておきたい。スポーツアニメとしては異色な組み合わせではあるが、物語は荒唐無稽ながら王道も王道、そして配置された要素がきっちりと見所となって、終盤の展開へと結びついていく様は感動的ですらある。話の結びにはいくばくかの不満は残る。しかし全26話を見終わった時、それすらも作品を味わった余韻として噛み締める満足感が得られることを間違いなく保証できる作品だ。






 

■ 登場人物について





 本作を彩る登場人物たちにはどれも捨てがたい魅力があるが、「プリンセスナイン」という物語は二人の少女を主軸として話が動くといって過言ではない。一人は当然ながら主人公、早川涼(下図右)。そしてもう一人は涼のライバル、氷室いずみ(下図左)。彼女たちの因縁を一から説明すると延々と長くなってしまうので一口に言えば、彼女たちは野球競技のライバルでもあり、恋愛関係でもライバルである、というのがこの作品が従来のものと一線を画す特徴なのだ。



プリンセスナイン 19 68



 先に説明した作品の少年漫画要素と少女漫画要素を接続する存在として、彼女たちは物語を背負って立っている。野球では「エースをねらえ!」の岡ひろみ竜崎麗香(お蝶夫人)の関係性であったり、それこそ「巨人の星」の星飛雄馬花形満が同じチームに属し、時に衝突しあいながらも切磋琢磨するようなライバル関係でもあり、片や子安武人が演じる超高校生級の球児、高杉宏樹を巡る三角関係の恋愛模様を繰り広げる、二人の少女でもある。これ以外にも涼の父親を巡る、涼といずみの母親の数奇な運命も彼女たちに重なり、一筋縄ではいかない人間関係が本編の大きな渦となっていくのも見過ごせないだろう。


 なお本項では良くも悪くも素直に反応し、主人公らしく苦悩し超克していく早川涼よりも氷室いずみについて、多くを割きたいと思う。何故かといわれれば、氷室いずみという人物は恵まれた環境(理事長の娘で裕福な家庭)に生まれついているにもかかわらず、とても泥臭く苛烈さも兼ね備えた強烈な個性だからだ。




プリンセスナイン いずみ237



 如月女子高の理事長の娘に生まれ、将来有望なテニスプレーヤーとして注目されていたが、と出会った事(同時に「いずみの母親と涼の父親の因縁」や「涼と幼馴染である宏樹との関係」も重なって)で彼女を強く意識し、自らの意思で野球に転向することとなる。そんな経緯もあって、涼に対しては一口に語れない複雑な感情が入り混じっている一方、自他共に厳しい努力家でもある事と歯に衣着せぬ物言いによって、チームでは憎まれ役として時にはキャプテンの涼に代わり、厳しさをもって檄を飛ばす。

 良くも悪くもいずみは涼に対して複雑な感情を滲ませる。自らを野球へと引き込んだ事に対しては敵愾心(てきがいしん)にも似た友情を見せ、また涼と宏樹の仲が接近するたびに嫉妬もする。そこへ母親が涼に見る面影(早川英彦)や、いずみ自身がコンプレックスに感じている家庭事情までもが重なっていく。氷室いずみにとって、早川涼は突如現れた、しかし見過ごすことなど到底出来ない、とてつもなく大きな存在として立ちはだかっているのだ(無論、涼本人はいずみからそれ程に意識されているとは露ほどにも思ってもいないのだが)。




プリンセスナイン いずみ 29



 元テニスプレーヤーとして培われた選手としての苛烈さ、また宏樹を幼い頃から慕っている少女らしい可憐さという二面性に、涼に対する強烈な対抗意識が氷室いずみという人物を構成する魅力だ。同時にこのキャラクターの濃さは、作品のドラスティックな部分を一挙に担っている。この点に限って言えば、本編の主人公である以上に作品の特色を体現した、まさしく影の主役であることは自明だろう。だからこそ最終盤におけるいずみと涼のやりとりには二人の関係性をこれ以上無く高める、エモーショナルに滾ったものが込められており、本作のクライマックスを彩っていることを強調しておきたい。個人的にこの作品をヘテロ(異性愛)をも内包したホモ(同性愛)の物語としても見ることが可能なのは、いずみの涼に対して渦巻く激情があってこそ、なのだ。



 もちろんいずみの他にも特色のある登場人物たちでひしめき合っているが、仲良しこよしだけではないチームメイトとしてグラデーションのある関係性が面白い。前項で触れたキャラクター以外だと、シリーズ前半にほとんど台詞の無い東ユキのいわゆる「不思議ちゃん」ぶりや、アニメにおける最初期のギャルキャラ(だと思われる)である渡嘉敷陽湖(下図)のコメディリリーフっぷりなど、目立つ目立たないを抜きにして、各キャラの個性があり、それぞれの役割で物語に寄与している。ここでは紹介にとどめておくが、この辺りはぜひ本編を見て、登場人物たちの魅力を実感してほしいところだ。




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■ 音楽について





 「プリンセスナイン」という作品にとって、他のなによりも欠かせない要素が音楽である。「ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-」の音楽を担当した天野正道、ならびにワルシャワフィルハーモニーオーケストラが演奏を担当している。


 作品ではワルシャワフィルの演奏と当時らしいシンセサイザー演奏で構成された劇伴音楽が鳴り響く。シンセザイザーの方は基本的に日常シーンやコミカルなシーンを彩っているが、特筆したいのはやはりワルシャワフィルの分厚いオーケストラ演奏だろう。主に試合展開を盛り上げたり、登場人物の感情や場の空気を明確にイメージさせる事などに効果的に使われているがバリエーションは多彩だ。


 「ジャイアントロボ」では作品内容の重厚さも相俟って、戦いの悲壮感や登場するロボットの重厚さを描くことに注力されていたが、本作においては「スポーツ(野球)の躍動感」を加味した軽やかさも奏でられている。もちろん話をドラマティックに盛り立てる点に於いても、過剰といっても憚られない程、ワルシャワフィルの演奏は大仰なストーリー展開へ一役買っている。


 またフルオーケストラ演奏が鳴り響くだけでなく、トランペットや、ハープ、ヴァイオリンなどの独奏、チェンバロや室内楽編成での演奏など、状況に応じた表情豊かな楽曲が要所要所に使われており、音楽だけで当時の作品群と比べて一味も二味も違った雰囲気が漂っているのは見逃せないポイントだ。


 特に終盤の2話、とりわけ最終26話はそんなワルシャワフィル演奏をふんだんに使った真骨頂のエピソードだろう。筆者の個人的な視聴履歴に限って言えば、ここまでフルオーケストラ演奏によって、視聴者の心を打ち震えさせるものに仕立てているアニメを見たことはない。ワルシャワフィルの重厚な演奏が劇的な試合展開の高揚感と緊張感を増幅させて、熱気溢れる臨場感をも脚色している。このようにフィルムスコアリングではないせよ、作品演出において音楽がとても重要な要素としてその一翼を担っているのも魅力の一つだ。


 物語は音楽によって、その魅力が増幅される。この作品の大仰かつ王道な物語展開を最大限に装飾しているのがワルシャワフィルの音であるのは間違いない。オーケストラ演奏の重厚でド派手な音だからこそ、物語を装飾するという以上に有無を言わぬ作品の説得力として機能している。同時に弦楽器などの旋律は登場人物たちの心情や感情を引き出し「プリンセスナイン」においてワルシャワフィルの奏でる音楽は切って離せないものといえるだろう。



 現にこの音楽ではない本作を想像できるか


 この作品を視聴した者にこの問を投げかければ、十中八九「ノー」と答えるはずだ。置き換えることは可能だが、当然ながら作品に漂う雰囲気が全く異なるものへとなることは想像に難くない。それほどに音楽が物語と密接に結びついている作品、という評価が出来るのも「プリンセスナイン」の換え難い特徴だ。





 

■ 注目話数





 序盤のもたつきが多少あれど、尻上がりに内容が良くなっていく本作において、作画シナリオともに充実しているエピソードを上げるとなると、まず上がるのが8話。ジブリ作品などにも参加経験のある田中雄一作監による作画と望月監督コンテの詰め詰めの内容がドラマを過剰なまでに盛り上げる。この作品らしい大仰さが味わえるという点でも見応えのある一話。


 その点で言えば、メインスタッフがコンテ演出作監を担当した17話も引けをとらない。展開的には力技のエピソードだがそれを納得させられてしまう熱量と勢いが感じられる。またキャラクター原案の山下明彦が唯一参加した回でもある。17話を踏まえた後に見る18話OPの仕掛けにも注目したい所だ。


 また本作で一番の盛り上がりを見せるのが最終26話だ。24話から一続きのエピソードとなっているが、それまでの25話で積み重ねられてきたキャラクターたちの描写や因縁、ドラマが押し寄せてくる展開はまさしく必見だ。そこにワルシャワフィルの劇伴音楽がこれでもかと惜しみなく流れてくるので、ドラマの最高潮を実感できるはずだ。


 取り立てて、この3話が本作の独特な魅力を見事に体現したエピソードだろう。どれも2クール26話の中できっちり「物語」を感じさせてくれる、キーポイントの回を選んだつもりだ。もちろんこれらはピンポイントに見るものではなく、1話からの連続ストーリーとして視聴してきたからこそ得られるカタルシスだということも明記しておこう。





プリンセスナイン 写真 40





 

【作品を観るには】





 現在、確実に作品視聴できる配信サイトは以下の2ヶ所のみ。


・バンダイチャンネル:http://www.b-ch.com/ttl/index.php?ttl_c=699
・dアニメストア:https://anime.dmkt-sp.jp/animestore/ci_pc?workId=11039



 2019年4月現在、廉価版DVD-BOX(国内版)が安価で手に入るので確実に見たい方におすすめ。


以下のリンクはamazonの商品ページ。

https://www.amazon.co.jp/dp/B00Q44G5OQ/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_zX77AbK8HNZDS





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執筆者 : テリー・ライス (@terry_rice88




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